読書する日々と備忘録

主に読んだ本の紹介や出版関係のことなどについて書いています

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2017年12月に読んだ新作おすすめ本

 年間ベスト的なものを作った後だと若干今更感もなくはなですが12月の新作おすすめ本です。とはいえ年間ベストだと何でもかんでも入れられないけど、十分オススメできるレベルというのはあるので、その辺は住み分けできればいいのかなとも思います。今年最後に読んだ「JKハルは異世界で娼婦になった」はいろいろ話題になっていて内容的にはどんなものかとおっかなびっくり読みましたが、テーマ的に読む人を選ぶところはありそうですけど、全体としてはなるほどなという納得感はある一冊でした。


予想外に良かったという意味で個人的な注目としてはぽにきゃんBOOKSの「白いしっぽと私の日常」。感想読んで要素的に好きそうだと感じた人は手に取って間違いない一冊です。あと久しぶりにヒーロー文庫で手に取った「群青の竜騎士」も今後に期待のファンタジー。あと富士見L文庫の「ひとりぼっちのソユーズ」、講談社タイガの「毎年、記憶を失う彼女の救いかた」、藤まるさんの「時給三〇〇円の死神」あたりは押さえておきたいところ。三十代女性の揺れる心を描いた「白い久遠」あたりも、気になる人にはぐっと来そうな気がするので是非読んでみて欲しい一冊ですね。

 

JKハルは異世界で娼婦になった

JKハルは異世界で娼婦になった

 

 女子高生・ハルがある日交通事故に遭って男しか冒険者にはなれない異世界に転移し、生活のために酒場兼娼館『夜想の青猫亭』で働くことを決意する物語。生きていくためには他に選択肢がなかった娼婦としての生活。男尊女卑で理不尽なことが日常的にある世界で、それを醒めた目で生きるためと割り切って前向きに生きるハルと多くの出会い。先の見えない前半の展開でしたけど、それも転機をきっかけにガラリと違ったものに見えて、相変わらずな世界で娼婦を続けるハルのありようや、周囲もその刺激を受けて成長してゆく結末がとても効いていました。

 

 

 犬神筋に生まれながらも霊力の低い白瀬さんの側にいる、白いしっぽだけしか見えない白い犬神・雪尾。そんな彼女と雪尾、不思議なものが見える高階くんの日常を描いたショートストーリー集。雪尾に救ってもらったことがある年下の高階くんと、図書館で働く白瀬さんの白い犬神を通じた出会い。高階くんもそういう筋の人なのかな?気になってはいてもお友達の域を出ないもどかしい距離感があって、白瀬さんの初恋相手や姉妹との邂逅もあったりで、そんな二人の想いと犬神とのささやかなやりとりが素敵な物語でした。続巻出たらまた読んでみたいですね。

親しい君との見知らぬ記憶 (ファミ通文庫)

親しい君との見知らぬ記憶 (ファミ通文庫)

 

 見知らぬ少女たちと出会い共に過ごした夢の記憶。ごくありふれた高校生活を送っていた幸成が初めて訪れた場所にふと既視感を覚え、そこで彼と夢の記憶を共有する少女・優羽子と出会う物語。夢で起きた出来事を確かめ合い一緒に出かけるようになってゆく二人。全てが順調に思えていたある日、突然昏睡状況に陥ってしまう優羽子。そこから一つのメールをきっかけに動き出す展開は、二人が共有する夢の記憶の解明にも繋がっていて、二人が出会いの始まりは夢でも、そこから積み上げてきた思い出が再び歩み始めた彼らの力になってゆく素敵な物語でした。

人なき世界を、魔女と京都へ。 (ファミ通文庫)

人なき世界を、魔女と京都へ。 (ファミ通文庫)

 

 授業中のうたた寝から目を覚ますと、街にも家にも人が消えた世界に取り残されていた四条陸太郎。世界を元に戻すため、もう一人だけ残っていた「魔女」とあだ名される同級生の士道花織と二人、原付で京都に向かう短い旅の物語。不機嫌で周りに命令ばかりしている花織とオタクな陸太郎の二人旅。道中一緒に様々なことを経験し、お互いを理解するうちに少しずつ変わってゆく関係と、旅の終わりに明らかになった二人だけの世界の真実。劇的だったのに何ともしまらないその後には苦笑いでしたけど、相変わらずな二人らしい結末がとても素敵な物語でした。

 吸血鬼ハンターの顔も持つ池袋の横町で小さなバーを営む神谷誠一郎。ある夜、彼のもとに世界で唯一の自称生まれつきの吸血鬼綾瀬真が訪ねてくる物語。吸血鬼になってしまった妹を追う誠一郎。かつての恋人・綾瀬泉の娘をかくまうことにした彼と、自らの目で見極めた誠一郎を信頼し押しかけ女房気取りで振る舞う真。可憐でしたたかな真が見せる可愛らしいギャップと、ストイックでルーチンを大事にしていたはずなのにいつの間にかそれを受け入れ始めている誠一郎の距離感が素敵で、複雑に絡み合う因縁が何をもたらすのか、続巻がとても楽しみですね。

あまのじゃくな氷室さん 好感度100%から始める毒舌女子の落としかた (MF文庫J)
 

 美人で優等生だけど高圧的で毒舌の生徒会長・氷室涼葉。そんな彼女に想いを寄せる副会長・田島愛斗が、ある日彼女の本当の気持ちが聞こえるようになってしまう捻れ系青春ラブコメ。愛斗にダダ漏れになってしまう涼葉の毒舌に隠された可愛らしい本音。これは楽勝と思ったら両想いなのに涼葉のあまのじゃくっぷりは斜め上過ぎて、何でそうなるのかツッコミを入れたくなる悪循環の連続で、それでもブレなかった二人の想いと遠回りしながらも踏み出したその一歩に、深い安堵というか生温かく見守りたくなりました。続刊あるならまた読んでみたいですね。

群青の竜騎士 1 (ヒーロー文庫)

群青の竜騎士 1 (ヒーロー文庫)

 

 科学とファンタジーが混じり合う世界。テルミア空軍第一航空隊の結城文洋が交戦中に邂逅した少女・レオナ。策謀に巻き込まれた異国の少女を若き飛行士たちが救う航空戦記。母国に残されたレオナの弟を救出するため密かに協力を惜しまないフミや男たちはカッコよくて、機を逃さずしっかり妻の座に収まったエルフで大家のローラを軸に、養女となったレオナやダークエルフで戦場では相棒のラディアといったヒロインたちもまた魅力的で、絶妙な世界観を舞台に繰り広げられる躍動感のある展開もとても良かったです。これは続巻も期待の新シリーズですね。

先生とそのお布団 (ガガガ文庫)

先生とそのお布団 (ガガガ文庫)

 

 売れない中年ライトノベル作家・石川布団と人語を解す「先生」と呼ばれる不思議な猫とがつむぎ合う苦悩の日々が描かれる私小説的執筆譚。これはどこまでが実話なのか妄想なのかいろいろと想像してしまうくらいにはリアリティを感じる展開でしたけど、遥か年下の女の子がどんどん飛躍していく一方で、他社への持ち込みや企画がボツになったり何度も打ち切りを食らったり、こうもうまくいかない事が続くとなかなかしんどいですよね...。今の時代に自分の書きたいことを書く作家であり続けることは、つまりこういうことなのかとも思ったりしました。

魔術監獄のマリアンヌ (電撃文庫)

魔術監獄のマリアンヌ (電撃文庫)

 

 魔術師たちの監獄『ヴァッセルヘルム大監獄』に着任した若き刑法官マリアンヌが、数年前に魔術師たちの反乱を扇動して捕らえられた男ギルロアとともに、未だ逃亡を続ける反乱の首謀者レメディオスを捕縛する旅に出る物語。故郷と両親を失って魔術師に複雑な想いを抱えるマリアンヌと、掴みどころがないギルロアの目的。彼女たちが旅先で目にする意外な光景と、王国で反乱と呼ばれていたものの真実。きちんと向き合ったマリアンヌの心情を思うと切なくもありましたけど、そんな彼女の決意とこれからを応援したくなるとても著者さんらしい作品でした。

僕と君だけに聖夜は来ない (角川スニーカー文庫)

僕と君だけに聖夜は来ない (角川スニーカー文庫)

 

 12月24日夜。高校生・理一は片想いの相手なつみから告白された直後に目の前で彼女が命を落とし、2日前に戻るループに閉じ込められてしまう物語。なつみを救おうと奔走するのに、その告白をトリガーに彼女を失い続ける絶望に打ちのめされてゆく理一。心を折られた彼の前に現れた謎の少女リンカが語るループの正体。終わらない悲劇の解消にはそれしか方法がなかったのか、つい考えてしまう残酷な結末でしたけど、それでも変わらないなつみへの想いを抱える理一がここから二人の未来にどう希望を見出してゆくのか、続巻に期待したいところですね。

聖王国の笑わないヒロイン 1 (ヒーロー文庫)
 

 美人なのに無愛想で同僚からは鉄仮面と揶揄される王国魔法騎士団の女騎士・ニア。立ち寄った魔法具店で店員の男に捨てたはずの過去を看破され、そこから動き出す元伯爵令嬢の物語。魔法具店の店員で自らを転生者と語るアルンバートによって明かされる前世の彼女をゲームのヒロインとする物語。明かされた内容に半信半疑で、ありようもシナリオからも外れてゆく彼女が遭遇する事件。ルートとしてはやや意外に思った方向へ向かいそうですけど、彼と仲間たちに出会ってから少しずつ変わってゆく彼女の変化は好ましくて、これはこれで今後に期待ですね。

君と夏と、約束と。 (GA文庫)

君と夏と、約束と。 (GA文庫)

 

 恋人になった直後に7年前に突如として消失した葉月。失意の日常を送りながら大学生になったヒナタ。そんな彼の元に消え去った当時のままの14歳の姿で突如彼女が出現する青春小説。同級生だった2人が7年間のズレを抱えて再会し、気持ちを通わせ合ううちに気づいてゆくお互いの「昔の記憶」の差異。ヒナタを慕うバイト先の訳あり後輩少女・喜野も交えた三人の距離感は何とも複雑で、それぞれの決意には新たな未来も予感させましたけど、だからこそ物語が結末を迎えたと思った後にさらっと提示されたエピローグには、少しばかり驚かされました。

 

 

 幼いころに出会ったハーフの女の子ユーリヤ。僕をスプートニクと呼ぶ彼女と月を見上げて宇宙飛行士に憧れた夢。そんな二人の成長を描く物語。どんどん成長するスプートニクと生まれつき身体が弱い彼女とのすれ違い。遠く離れ夢に向けて突き進むユーリヤとの再会と、焦燥を覚えつつ遅ればせながら夢を追いかけることを決意したスプートニクの思い。彼女との距離がどんどん遠くなっていっても、お互いかけがえのない存在であることは変わりなくて、素直になれない彼女にきちんと向き合ったスプートニクの覚悟には本当にぐっと来るものがありました。

毎年、記憶を失う彼女の救いかた (講談社タイガ)

毎年、記憶を失う彼女の救いかた (講談社タイガ)

 

 両親が事故死したショックで、毎年その日近くになると記憶が事故直後に戻ってしまう尾崎千鳥。空白の3年間を抱えた千鳥の元に小説家・天津真人が現れ、ある賭けを持ちかけられる物語。デートするたびに千鳥の心を揺さぶる真人。少しずつ確実に惹かれていくのを自覚しながらも、だからこそ彼を信じていいのか戸惑う臆病な千鳥の想い。そんな中で明らかになってゆく二人の関係、そしてそれ以上に困難にも諦めずに特別で大切な千鳥に向き合い続ける真人の決意には心打たれるものがあって、そんな二人が紡いでいく真摯な想いがとても素敵な物語でした。

殺人鬼探偵の捏造美学 (講談社タイガ)

殺人鬼探偵の捏造美学 (講談社タイガ)

 

 新米刑事・百合が殺人鬼マスカレードに殺されたと思われる怪死体に遭遇し、先輩刑事に捜査協力者として精神科医・氷鉋を紹介されて共に事件解決に挑む物語。妹をマスカレードに殺され家庭崩壊し復讐を誓う百合。調べれば調べるほどいくつもの顔が見えてくる謎めいた被害者・妙高麗奈、証言が食い違う父親、婚約者、恋人。二転三転する展開とそれを独特な視点から解き明かしてみせる氷鉋、そして最後に明かされた真相はこれはこれでわりと楽しめました。邂逅した宿敵とも言える二人が今後どんな結末を見せてくれるのか、続巻に期待したいと思います。

榮国物語 春華とりかえ抄 (富士見L文庫)

榮国物語 春華とりかえ抄 (富士見L文庫)

 

 榮の貧乏官僚の家に生まれた双子、金勘定にシビアな姉・春蘭と刺繍を得意とする立派な淑女に育った弟の春雷。誤った噂は皇帝の耳にも届き春蘭の後宮入りと春雷も科挙受験が決まり、追い詰められた二人が入れ替わることを決意する中華ファンタジー。双子を利用しようとする野心家・天海宝が出世を目論む理由。妃嬪を避けるため双子が近づいた公主が知ってしまった陰謀。春蘭と口が悪い海宝の毎度いがみ合う関係からの変化や、そんな彼の意外な一面と窮地に双子たちも協力しての大逆転劇はなかなか面白かったです。今後どうなってゆくのか続巻に期待。

 結婚の当ても外れ職も失った状態で30歳を迎えた恵里菜。婚活を調べるうちに見かけた長野県へのバスツアーに参加した彼女が、それをきっかけに長野に移住して手探りで手探りで飛び込む恋と農業ライフ。イケメンとの衝突というきっかけがあったとはいえ、知らない土地・知らないことだらけでゼロから飛び込む勇気はなかなか出ないよなあとか感じたりもしましたが、歳下の優真の助力を得て心機一転農業のいろはを学びつつ真摯に取り組んだり悩んだりな姿には好感。二人の関係にもこれから進展の余地はあるのかな?続巻あるならまた読んでみたいです。

この終末、ぼくらは100日だけの恋をする (メディアワークス文庫)

この終末、ぼくらは100日だけの恋をする (メディアワークス文庫)

 

 人が突然消失するのが日常化した世界。孤独だった悠木が高校時代に一目惚れするもあっさり振られた女の子・凪。卒業から一年と少し後、目の前に突然現れた彼女から100日間だけ一緒に共同性活を提案される恋愛小説。困惑しながらも始まった二人きり、ひとつ屋根の下で始まった田舎での共同生活。過ごすうちに再び凪にどんどん惹かれてゆく悠木、素敵になった凪と過去の真相。凪が共同生活を提案した理由が明らかになってからは、寄り添う二人の想いが切なかったですが、それでも終わってみれば本当に良かったという思いしかない素敵な結末でした。

死を見る僕と、明日死ぬ君の事件録 (メディアワークス文庫)

死を見る僕と、明日死ぬ君の事件録 (メディアワークス文庫)

 

 人の死を予告する幻影が見えてしまう秘密を抱え、辛い過去から学校に行けなくなってしまっていた僕。ある時死の未来を抱えている女子大生の鈴と出会い、運命に抗うために奔走する物語。事情を知って前向きに人を助けようとする鈴と、過去の失敗から慎重な僕。コンビを組んで人を救うことに手応えを感じ始めた頃に知る過去と警告、そして僕が欠落していた過去の真実に気づいた時、見えていたものもまたガラリと変わって、最後までブレない鈴がいろいろな意味で凄いなと感心もしましたけど、悲しみを乗り越えたその結末には救われるものがありました。

 祖母を亡くし老犬と一緒に暮らしながら、小さな市立図書館の児童室に勤める司書子さん。そんな彼女が“タンテイ"こと反田と知り合い、その世界が広がってゆく優しい物語。狭い世界で完結していた司書子さんと図書館常連のタンテイさんとの出会いで始まった日々の生活の変化。最初馴れ馴れしい印象もあったタンテイさんは、一方で困っている人を放っておけない人でもあって、彼に振り回されたりしつつも自身に起こる変化や気づきを司書子さんが前向きに受け止めるようになってゆく展開はなかなか良かったですね。続巻あるならまた読んでみたいです。

 

 

時給三〇〇円の死神 (双葉文庫)

時給三〇〇円の死神 (双葉文庫)

 

 同級生・花森雪希から突然「死神」のアルバイトに誘われた高校生の佐倉真司。成仏できずにこの世に残る「死者」の未練をはらす「死神」の仕事を通じて、自身の思いやありようもまた少しずつ変化してゆく物語。半信半疑のまま始めた死神のアルバイトで様々な死者に花森とともに向き合う日々。もっとできることはなかったのかたびたび後悔に直面する一方で、このアルバイトで共に過ごした時間があったからこそ気づけたことや乗り越えられたこともまたたくさんあって、著者さんらしい泣き笑いの切ない想いがたくさんつまった、とても素敵な物語でした。

イシマル書房編集部 (ハルキ文庫)

イシマル書房編集部 (ハルキ文庫)

 

 念願かなって神保町の小出版社にインターンとして採用された満島絢子。しかし、当のイシマル書房は親会社から最後通告を受ける―会社存続の危機で、起死回生のベストセラー誕生を目指す出版小説。今年の目標「生き延びる」がリアルで、不器用だけど情熱ある石丸社長が命運を託したのは引退していた文芸編集者と理由あり作家。絢子はもとより元ヤンキーの営業マン、活版職人の絢子の祖父、全国の書店員などにも協力を仰いでの総力を挙げた奮闘ぶりやそれぞれの想いはとても熱く心揺さぶるものがあって、最後には少しばかりうるっと来てしまいました。

撮影現場は止まらせない! 制作部女子・万理の謎解き (角川文庫)

撮影現場は止まらせない! 制作部女子・万理の謎解き (角川文庫)

 

 映像制作であらゆる雑用をこなす縁の下の力持ち的存在の制作部。制作部女子の万理が巻き込まれるトラブルだらけな撮影の日々が綴られたお仕事エンタメ小説。プロデューサーから女優の変更を告げられ突如降板しようとする監督の真意、わがまま女優が気になる助監督の初恋、撮影場所が事前にリークされてしまうトラブルに、撮影現場先での元カレとまさかの遭遇。トラブルを起こす当事者たちにもまた上手く伝わらない思いがあって、そんな機微を汲み取って配慮しながらうまくまとめ上げてしまう、皆に愛される万理の頑張りを応援したくなる物語でした。

今夜、ロマンス劇場で (集英社文庫)

今夜、ロマンス劇場で (集英社文庫)

 

 死期も近い病床の老人健司が、かつて青年時代に通ったロマンス劇場と、モノクロ映画の世界から飛び出したお姫様・美雪の思い出を語ってゆく恋愛小説。モノクロ映画の中の美雪にずっと憧れていた若き日の健司。突然現れた美雪に振り回されてばかりいた健司がようやく掴んだ映画監督を務めるチャンス。彼女の出会いから始まった様々な変化は彼にとってひとつの転機で、最初のうちは健司をしもべ扱いしていた美雪の真意と抱えていた秘密は何とも切なくて、その選択が困難だらけでもそれを二人で一緒に乗り越えてきた彼ららしい幸せな結末に思えました。

放課後に死者は戻る (双葉文庫)

放課後に死者は戻る (双葉文庫)

 

 教室の机に入れられた手紙で呼び出され、助けに入ったイケメンの真治と一緒に誰かに崖から突き落とされたノブオ。病院で目が覚めると見た目が真治の姿に入れ替わっており、自分を殺した犯人を探し始める青春ミステリ。真治の姿で母校に転校生として戻ってきたノブオ。以前の自分との扱いの差を実感しつつ、犯人を探し始めたノブオに警告する謎の存在。誰もが信じられなくなり、疑心暗鬼に陥ってゆくノブオでしたけど、意外な真相からそれぞれがあるべきところに戻ってゆくその結末は、タイトルの意味にも繋がっていてなかなか悪くない読後感でした。

SF飯 宇宙港デルタ3の食料事 (ハヤカワ文庫JA)

SF飯 宇宙港デルタ3の食料事 (ハヤカワ文庫JA)

 

 機械知性により過保護過ぎるほど守られた宇宙世界。中央星域の商家を勘当されたお人好しな若旦那マルスが、辺境の宇宙港でかつての奉公人・祖父の食堂〈このみ屋〉を再開させようと頑張る少女コノミと再会する物語。宇宙グルメを期待して読むと、計算され過ぎた調整食や厳しい辺境の食糧事情に面食らいますが、どんどん厄介事に巻き込まれてゆく若旦那に、バイタリティあふれるコノミや若旦那の妹、異星人まで絡むカオスな展開には勢いがあって、あれ?と思うようなところも散見されますが、荒削りながらもなかなか面白いものを読めたと思いました。

 

 

白い久遠

白い久遠

 

 祖父・健三郎が病で倒れた際、美術館の学芸員という立場と恋人を捨てて、路地裏にある老舗の実家『藤屋質店』の手伝いをしている香芝涼子。不思議な縁で店に持ち込まれる謎を描く連作ミステリ。大学生二人が持ち込んだ外国製の高価な陶製人形、萩焼の贋作、いわくありげな鼈甲のかんざし、そして未発表の藤田嗣治の絵画。持ち込まれた品を巡る過去が明かされてゆく落ち着いた雰囲気の物語で、祖父とともに冷静に謎を解き明かしてゆく一方で、密かに心揺れる涼子さんがあるべきところに落ち着くところを願わずにいられない、そんな素敵な物語でした。

悲しい話は終わりにしよう

悲しい話は終わりにしよう

 

 生まれ育った松本から出ないまま怠惰な大学生になった市川が、大学で知り合った数少ない友人の広崎と吉岡さん。周囲はどんどん変化しても、過去に縛られずっと動けずにいた彼の出会いと変化を描く青春小説。音楽に傾倒していく広崎との友情と三人の複雑な関係。並行して描かれてゆく中学時代の親友・奥村と初恋の相手・沖田さんのエピソード。苦い後悔はそう簡単には払拭できないでしょうけど、そんな現状から抜け出すきっかけとなる運命の出会いがあって、大切に思ってくれる人がいて、乗り越えようと前を向く結末にはぐっと来るものがありました。

ひよっこ社労士のヒナコ

ひよっこ社労士のヒナコ

 

 派遣社員から一念発起し社会保険労務士になった二十六歳のヒナコが、得意先で相談に乗りながら事件を解決し成長していくお仕事小説。解雇、ブラックバイト、産休育休、パワハラ、残業代、裁量労働制、労災といったよくある事例をテーマに取り組んでいく新米社労士の仕事はなかなかハードで、社内トラブルに巻き込まれかけたり、上手く利用されそうになったりもありましたけど、それでも試行錯誤しながら真摯に取り組んでいく雛子の頑張る姿には素直に応援したくなるものがありました。いろいろ勉強にもなって続刊あるようならまた読んでみたいです。

ウズタマ

ウズタマ

 

 シングルマザー紫織との結婚を控え、父から見たこともない謎の預金通帳を手渡された松宮周作。父はそのまま脳梗塞で倒れ昏睡状態となってしまい、そのお金を用意した人物を探し始める物語。親戚付き合いもなく知人も少ない父の謎に包まれた過去。調べていくうちに知る25年前のある傷害致死事件の被害者だった母、そして加害者の当時18歳の少年。過去を探る周作は一方で結婚してやっていけるのか悩んでもいて、明かされてゆく真相は何とも切ないものでしたけど、それが過去や結婚に向き合うことにも繋がってゆく展開は心に響くものがありました。