読書する日々と備忘録

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今後に期待したい!ファミ通文庫・HJ文庫・ラノベ文庫・スニーカー文庫の青春小説21選

青春小説や恋愛小説が大好きで、毎月目を皿のようにして自分好みの新作を探していますが、最近は月末・月初辺りは特に注目しています。ファミ通文庫・HJ文庫・スニーカー文庫ラノベ文庫あたりで気になる新作がコンスタントに刊行されるようになっているからです。この流れは大切にしたいし、これからもっと盛り上がって欲しいと思っています。なので今回はそんな中から21作品を紹介したいと思います。

 

ファミ通文庫

ここは以前から野村美月さん・森橋ビンゴさんなど青春小説のイメージがありましたが、昨年「近すぎる彼らの、十七歳の遠い関係」を刊行した辺りから、まだ点数は少ないものの注目の青春小説を刊行するようになっています。今一番の注目は「キミは一人じゃないじゃん、と僕の中の一人が言った」ですね。

 小学校時代の多重人格ごっこという二人だけの秘密を共有する一色華の実と高校で再会した、三人の人格を抱えて生きる市川櫻介。秘密を唯一知る彼女との再会が二人を変えてゆく青春小説。別人のように人気者になっていた彼女から再び持ちかけられた多重人格ごっこ。急速に距離を縮めていく二人のやりとりがとても甘酸っぱくて幸せそうなのに、時折垣間見えてしまう彼女の想い。再会した彼女が乗り越えてきたこれまでとその宿命には切なくなりましたが、だからこそ櫻介と彼女が幸せになってゆくこれからを読みたいと思いました。続巻期待しています。

 母と二人で暮らす家で、同い年の遠い親戚の女の子和泉里奈と同居することになった高校生の坂本健一。彼女の出現によって様々な変化がもたらされてゆく物語。兄にコンプレックスを抱き他人との距離に悩む健一と、控えめながら女子校育ちで無防備な里奈。近過ぎるのにどこか遠い彼女を意識し友人たちに知られたくないと感じる健一に気づき、心穏やかではいられない幼馴染・由梨子。最近希少のオーソドックスな構成ですが、波紋が広がってゆく著者らしい繊細な心理描写は素晴らしいですね。全2巻。

リンドウにさよならを (ファミ通文庫)

リンドウにさよならを (ファミ通文庫)

 

 想いを寄せていた少女・襟仁遥人と共に屋上から落下し死んでしまったらしい神田幸久。二年後地縛霊として目覚めた彼はクラスでいじめに遭う穂積美咲に存在を気づかれ彼女と友達になる青春小説。自分の存在に気づいてくれた少女・美咲の優しい一面を知って現状を変えようとアドバイスをし、美咲が勇気を持って踏み出した一歩から少しずつつ変わってゆくその境遇。繊細な描写を積み重ねて作り上げられた伏線を回収してゆくことで意外な事実も明らかになっていって、爽やかで納得感のある結末まで組み上げたその構成力は今後に期待の作家さんですね。

佐伯さんと、ひとつ屋根の下 I'll have Sherbet! 2 (ファミ通文庫)

佐伯さんと、ひとつ屋根の下 I'll have Sherbet! 2 (ファミ通文庫)

 

 高校二年生の春、ひとり暮らしを始めるはずだった弓月恭嗣が、不動産屋の手違いでひとつ年下の帰国子女・佐伯貴理華と同居するはめになってしまう物語。無防備な距離感で接してきて家の中と外とでは印象が違う佐伯さんと、苦い過去を持つがゆえに家の外では一定の距離を置こうとささやかな抵抗を続ける弓月くん。表情豊かでキャラとしてもよく動いている佐伯さんとの同居生活が弓月くんを少しずつ変えていって、その変化がクールな弓月くんの元カノ宝龍さんや周囲の友人たちにもまた影響を及ぼしてゆく展開はとても良かったです。10月に3巻刊行予定。

 好意を寄せるクラスメイト・愛原そよぎの悩み事は想像を遥かに超えるもの。本気とも冗談ともつかない相談に真剣にアドバイスを送る二人による非日常系お悩み相談日常ラブコメ。秘密のはずなのにバレバレな質問をする天然娘・そよぎと、彼女に惹かれ気づかないふりをして真摯に答えてあげる幸助。そよぎだけでなく彼女の友人や弟・雪弥にも振り回されるドタバタ展開で、けれどそよぎが抱える秘密と次々と明らかになってゆく切ない過去や複雑な事情は切なくて、それでも周囲の人たちがいたからこそ迎えられたほっとする結末はなかなか良かったです。

 高三の夏に突如消失した片想いの相手・茉莉。辛い現実を受け止められないまま二十歳の誕生日を迎えた崇希が、消失を回避すべく二人が出会った二年前の春からやり直すタイムリープ青春小説。近くで眺めるだけだった過去を反省し、積極的に茉莉と距離を縮め真相に近づこうとする崇希。幸せな日々に時折訪れる不安な兆候の一方で、明らかになってゆく意外な過去。不安に揺れる二人の初々しい距離感はもどかしくて、容易には覆らない未来に難しさも感じましたけど、再会して絆を育んでいった今の二人ならきっとそれを乗り越えてくれると信じたいですね。

 

 【HJ文庫

点数は多くはないものの、最近挑戦的な作品を意欲的に発表しているのHJ文庫です。桜色のレプリカもいろいろ賛否あった作品でしたが、内堀優一さんの新作もまた今後に期待の一冊です。

 高校入学から数ヶ月。長らく片思いをしていた幼馴染の杉崎小春に告白して見事玉砕した大貫悟郎。両思いなのに付き合えない、一途過ぎる少年と本当は彼のことが大好きな少女の青春大暴走ラブコメ。自宅に帰るといつもいて、一緒に過ごす時間も長いのになぜか告白を断り、あまつさえ彼女を作れとまで無茶振りする小春。いい感じにしか思えないのに付き合えない二人が再会した、もう一人の幼馴染という転機。大好きであるがゆえにすれ違ってしまった二人の想いが切な過ぎて、これはもう最後まで見届けるしかないじゃないですか。早めの続刊待ってます。

桜色のレプリカ 1 (HJ文庫)

桜色のレプリカ 1 (HJ文庫)

 
桜色のレプリカ 2 (HJ文庫)

桜色のレプリカ 2 (HJ文庫)

 

 「学校」の文学教師を務めている六方カザネが、ある日理事長の二階堂イツキに呼び出されて奇妙な依頼を受ける物語。同じ教師を務める彼女・メグミがいて、淫乱ピンクの三十刈アイラ、アニメ的お約束好きの四十田ユキ、委員長タイプの五十嵐ヒビキや、無口で小説好きの百合原ハルカといった女生徒たちに振り回される日々。けれどそれも緊急時には全く別の一面があって、急展開の中で明かされてゆく事実はこの物語そのものの意味合いもガラリと変えてしまいましたけど、そこからさらに驚愕の事実を突きつけられるカザネという構図には驚かされました。恋愛小説という枠で捉えるよりは、先入観を捨ててフラットな気持ちで読んだ方が楽しめそうな作品です。全2巻。

 

 

 【ラノベ文庫】

なにげに以前からコンスタントに青春小説を刊行しているのがラノベ文庫。クセのある作品も多いですが、他ならたぶん出ないだろうという作品もあったりで、意外と懐の深さを感じるレーベルだったりもします。ここもまた違う意味で期待のレーベルです。

 成績優秀だがクズを自認する浅井悠馬が偶然クラス演劇主役を演じることになり、幼馴染の明日香とともにクラスの中心に君臨する荒川唯のグループに巻き込まれてゆく青春ラブコメディ。行動をともにする機会が増えてゆく唯の見た目とは全然違う純真さとひたむきさ。少しずつ惹かれてゆく悠馬が知ってしまった唯のらしくない秘密。何ともほろ苦い気持ちを抱えながら、それでも彼女のために奮闘する悠馬の姿は心に響きましたが、だからといって頑張れば報われるとは限らないのが現実で、そんな迷える彼らの行く末を続巻でまた読んでみたいと思いました。

ありえない青と、終わらない春 (講談社ラノベ文庫)

ありえない青と、終わらない春 (講談社ラノベ文庫)

 

 選択しなかった運命を選択するために未来から戻ってきたという少女・前田きららと出会った石崎海。戸惑いながらも真っ直ぐな彼女に惹かれてゆく物語。令嬢としてすでに敷かれているレールを歩むだけのきららの人生。イケメンで優秀な婚約者の存在。一緒にいるうちに想いを自覚してゆく一方で、突きつけられる容易には叶わない現実。二人の想いに焦点を当てるシンプルな構図にしたことで、その分周囲の人物描写があっさりとしていた感はありましたが、逡巡を乗り越えて未来を一緒に切り開いた二人のこれからを応援したくなる爽やかな青春小説でした。

双子喫茶と悪魔の料理書 (講談社ラノベ文庫)

双子喫茶と悪魔の料理書 (講談社ラノベ文庫)

 

 幼馴染の葉月に告白できないまま、彼女やその双子の妹・水希と彼女たちの実家の喫茶店でバイトしている篝。ある日、水希が持ち出した古本から出てきた妖精キキに願いを勘違いされ、葉月ではなく水希の方と縁を結ばれてしまう物語。篝と水希が付き合っていると周囲に認識されている世界。最初は状況を解消しようと焦る篝でしたけど、水希が支えたからこそ乗り越えられた過去があって、弱音を吐けない彼女のために奔走する一面もあったりで、積み重ねによって少しずつ変化してゆく距離感や繊細な描写がとても良かったです。これは続巻も期待ですね。

友達いらない同盟 (講談社ラノベ文庫)

友達いらない同盟 (講談社ラノベ文庫)

 
暇人同盟 友達いらない同盟2 (講談社ラノベ文庫)

暇人同盟 友達いらない同盟2 (講談社ラノベ文庫)

 

 妙なこだわりで高校で友達ができない新藤大輔に、存在感のないクラスメイト澄田が持ちかけてきた困ったときに助け合う「友達いらない同盟」そんな同盟から始まる二人の物語。それぞれが複雑な家庭事情を抱えてはいるけれど、一見同じようでいてまるで対照的な新藤と澄田。グループから浮いた城ヶ崎も加わって三人で楽しそうに見えたのに、なぜか澄田が距離を置くようになってゆく危機的状況でしたが、本音で引き留めようとする新藤の提案はかなり無茶苦茶でしたね(苦笑)このレーベルでたまに出てくる不思議な魅力のある物語。全2巻。

自殺するには向かない季節 (講談社ラノベ文庫)

自殺するには向かない季節 (講談社ラノベ文庫)

 

 ある朝、同級生の雨宮翼が列車へ飛び込み自殺を図るのに関与してしまった永瀬。その自殺が忘れられない彼が友人の深井から過去に戻れるカプセルを手渡され、やり直すために過去へ遡る物語。最初は彼女に関わらないと決意したはずなのに、逆に雨宮に関わる機会が増えてしまう永瀬。そんな彼に改めて突きつけられる「蝶は羽ばたかない」という事実。それでも当事者の変えようとする意志によって変わることもあって、多くの人にとってはさほど変わらない、けれど確実に変わったその結末に、一抹のほろ苦さを感じながらもどこか救われる思いがしました。

 入学した高校でスクールカースト最下層に身を置く白根与一が、担任から廃部にハンストで抵抗する美少女・黒羽瑞穂の監視役として図書部に入るよう命じられる物語。序盤は既視感を感じる設定やキャラ造形ですが、そこから明らかになってゆく少し学べば何でも人並み以上にこなしてしまう天才少女・瑞穂の境遇や、幼馴染である中禅寺さくらとの複雑な関係。一見こじらせた言動ばかりに思える瑞穂のありようは、それでいて白根も目をそらせないほど真っ直ぐでとても印象的でした。全2巻。

君に謝りたくて俺は (講談社ラノベ文庫)
 

 高校入学した今井健人が、小学校の頃素直になれずにいじめてしまった苦い過去を持つ相手で記憶障害を持つ明日葉待夢にまさかの再会を果たす物語。いじめていた健人を覚えておらず、周囲から浮きがちな待夢を助けるうちに惹かれ合ってゆく二人。だからこそ過去を隠していることに苦悩する健人。ふとしたきっかけで気づいた過去には動揺もありましたけど、一方で彼女をたくさん救ってきた今があって、「過去は変えられないけど未来を変えられる」と待夢の記憶障害の原因を突き止め、二人で乗り越えようと奔走する姿が心に響くとても素敵な物語でした。

彼方なる君の笑顔は鏡の向こう (講談社ラノベ文庫)

彼方なる君の笑顔は鏡の向こう (講談社ラノベ文庫)

 

幼馴染の詩歌だけにはダメな一面も見せる美少女の彼方。そんな彼女が神社での事故から3人の付喪神の女の子を生み出してしまい、その3人と一人暮らしの詩歌が同居生活を始める物語。「詩歌への想い」「記憶」「食欲」の強い想いを失い、どこかよそよそしくなってしまった彼方。欲望に忠実な3人に振り回される詩歌。以前の駄彼方に戻って欲しいと思う一方で、彼方も加えて共に過ごし家族のような関係と感じるようになってゆく彼らは難しい決断を迫られましたが、彼らの強い絆を信じて応援したくなったちょっぴり切ない幼馴染たちの恋の物語でした。

 

 【スニーカー文庫

昨今インパクトの強い作品がたくさん刊行されているスニーカー文庫ですが、このジャンルにおいてもレーベルらしい突き抜けた濃いタイトルが多いです。そんな中でもカミツキレイニーさんの作品は著者さんらしさがいい感じに出ている魅力的な作品ですね。

 いなり寿司しか食べられない呪いを祓うため神々の住む島・白結木島を訪れた高校生春秋。そんな彼が神様との縁を切ることで怪異を祓う花人の後継者の少女・空と出会い、怪異解決に挑む沖縄青春ファンタジー。天真爛漫でどこまでもフリーダムだけれど島想いな空たちに翻弄されながら、徐々に変わってゆく春秋の心境。師匠を亡くし未熟を自覚しつつも、事情を知って春秋のために呪いを解こうとする空の決意。のびやかな舞台で繰り広げられる物語の結末はちょっぴり切なくて、けれどそれを乗り越える爽快な読後感は著者さんらしい魅力に溢れていました。

君と四度目の学園祭 (角川スニーカー文庫)

君と四度目の学園祭 (角川スニーカー文庫)

 

 学園祭が間近に迫る高2の秋。連日大事故に繋がりかねないトラブルに見舞われ続けながら、なぜか幼馴染の少女・久遠に助けられていた結羽太。そんな折り久遠が学園祭で誰かに告白するという噂を聞く青春小説。そばにいるのが当たり前な久遠の想い人に気づけない結羽太。彼を死から救うためにやり直し続けてきた久遠に突きつけられる絶望。序盤展開の分かりづらさはやや気になりましたが、最後まで諦めない久遠の過去を知り、結羽太が失われかけていたものを取り戻しに行く展開は、報われないことも多い幼馴染ものとしてぐっと来るものがありました。

 最後の魔女という宿命を背負う少女・星降ロンドの運命を変えた、重力を操る能力を持つ以外は平凡な高校生・獅堂ログとの出会い。彼らにクラス一の美少女・木佐谷樹軍乃と関わりだしたことでさらに大きく動いてゆく物語。ログを振り回す軍乃が抱える秘密とその真意、闘病を乗り越えてこれから人生を満喫したいと願うロンド、彼女を支えるログが直面するロンドを取り巻く宿命との契約。何とも複雑なバランスの上に成り立っている揺れ動く三人の関係に注目の青春小説です。全2巻。

おにぎりスタッバー (角川スニーカー文庫)

おにぎりスタッバー (角川スニーカー文庫)

 
ひとくいマンイーター (角川スニーカー文庫)

ひとくいマンイーター (角川スニーカー文庫)

 

 見た目も成績も地味なのに「なんか援交だかをやっているらしい」という噂によって、クラス全員に避けられている中萱梓。愛称アズ。いきなり始まるアズの思考だだ漏れな地の文のみっちり感には面食らいましたが、最初は友人の自称・魔法少女サワメグや窮地を助けてくれた穂高先輩たちとぼっち少女の青春ものと思って読んでいたら、え?そっちなの?とどんどん思わぬ方向に向かってゆく展開は奇想天外で、なのにしっかりと青春もしていて、何かじわじわと来る独特な世界観を持つ突き抜けた物語です。全2巻。

まるで人だな、ルーシー (角川スニーカー文庫)

まるで人だな、ルーシー (角川スニーカー文庫)

 
まるで人だな、ルーシー2 (角川スニーカー文庫)

まるで人だな、ルーシー2 (角川スニーカー文庫)

 

 エキセントリックボックスに宿る少女・スクランブルの人身御供となった御剣乃音が願いを叶える代償は人の感情。人間らしさを失いつつも力を行使し人を救う乃音が、正反対の人身御供・氷室に出会う物語。壊れてゆく自覚から抱える矛盾に悩む乃音と、代償に感情を得てどんどん人間に近づいてゆくスクランブル。大切だったものを次々と切り捨ててしまう乃音の選択には絶望的な気分になりましたが、だからこそ彼が育んできたものをきっかけに、どうにか悪くないとも思えるところに落ち着いた結末には救われる思いでした。2巻まで刊行。

 

 

今回この企画を作ろうと思ったのは見てもらえれば分かるように巻数を重ねている作品は少なく、また続刊の刊行も売り上げ次第という作品もあって、そんな続きを読みたいシリーズの刊行を後押ししたいという思いがあったからです。現時点では正直に言えば万人向けの作品ばかりではなくて、読む人を選ぶ作品も結構あったりまだまだ玉石混交です。ですがそれを積み重ねていくことで作品自体のクオリティも上がっていくと思いますし、選択肢も増えてくると信じています。紹介した作品の中で気になる作品があったらぜひ読んでみて下さい。