読書する日々と備忘録

主に読んだ本の紹介や出版関係のことなどについて書いています

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2017年4月に読んだ新作おすすめ本

 というわけで4月に読んだ新作おすすめです。今回は20点紹介します。「緋色の玉座」は最近では珍しい史実をベースに魅力的な物語にしてみせた注目の戦記ファンタジー。著者さんらしさの詰まった「読者と主人公と二人のこれから」、奇想天外のテロリスト青春小説「屋上のテロリスト」、浅葉なつさんの新作「カカノムモノ」、似鳥さんが描く恋愛小説「彼女の色に届くまで」など、魅力的な作品が多かったです。

 

緋色の玉座 (角川スニーカー文庫)

緋色の玉座 (角川スニーカー文庫)

 

 かつての栄光を失い虚栄と退廃に堕ちた東ローマ帝国。国の危機を憂う生真面目な騎士ベリスが、型破りな書記官プロックスと運命的な出会いを果たす戦記ファンタジー。ブロックスとの邂逅によって窮地を脱し、次期皇帝と目されるユスティンの元で頭角を現してゆくベリス。シリアスな展開続きでも脇を固めるキャラたちがよく動いて、その力が高く評価されることになったベリスとブロックスが、一方で皇妃となったテオドラと相容れない確執もあったりで面白かったです。それがいろいろな形で影響しそうな複雑な関係も絡めた今後の展開に期待大ですね。

読者と主人公と二人のこれから (電撃文庫)

読者と主人公と二人のこれから (電撃文庫)

 

 期待もない新学年のホームルーム。高校生・細野亮の前に愛してやまない物語の中にいた「トキコ」そのままの少女・柊時子が現れる出会うはずがなかった読者と主人公の物語。見れば見るほどそのままの時子との出会い。一緒に過ごしてゆくうちに想いが少しずつ積もってゆく一方で、自分の中で湧き上がってくる違和感。主人公の周辺を切り取ったようなクローズな世界観で、あまりにも不器用な二人の距離感にもどかしくもなりましたが、物語をきっかけに知り合った二人が物語で心を通わせて、これからの二人の世界の広がりを予感させる素敵な物語でした。

トリア・ルーセントが人間になるまで (ファミ通文庫)

トリア・ルーセントが人間になるまで (ファミ通文庫)

 

 病の父王を治す秘薬を手に入れるため、兄の特命でサルバドールを訪れた第二王子のランス。自らを薬と名乗る美少女トリアと護衛ロサと共に王都マキシムを目指すファンタジー。浮世離れしたトリアに戸惑いながらも共に旅するうちに惹かれてゆくランス。徐々に明らかになってゆく「ルーセント」の特異性と過酷な運命。宿命と自覚してゆく人間らしい想いに心揺れるトリアと、何とか救おうと奔走するランスに王家を巡る秘密も絡む展開にはハラハラさせられましたが、紆余曲折の末に迎えた二人のこれからを予感させる初々しい結末はなかなか良かったです。

ユリア・カエサルの決断 1 ガリア戦記 (オーバーラップ文庫)

ユリア・カエサルの決断 1 ガリア戦記 (オーバーラップ文庫)

 

 ローマ好きの高校生・糸原聖也が月の女神・ディアナに古代ローマそっくりの異世界へと転送され、ユリアという名の異世界のカエサルを支える異世界ファンタジー。カエサルクラッススキケロも女の子という近似ローマ世界で、女の子だからこその展開もあったりするわけですが、ユリアが女好きなのは変わらないんですね(苦笑)幼馴染も特異な存在だけど主人公自身にもいろいろ因縁がありそうで、今回は登場した主要人物や近似古代ローマの世界観説明もあったりしてテンポにはやや難がありましたけど、これから動きも多くなるでしょうし今後に期待。

天空の翼 地上の星 (講談社X文庫)

天空の翼 地上の星 (講談社X文庫)

 

 徐の王太子・寿白は革命の混乱のさなかに王の証・王玉を得たが庚に取って代わられ、十年後に飛牙と名乗って再び国を訪れる中華風ファンタジー。飛牙から玉を取り戻すべく現れた天令の那兪とともに訪れたかつての王都。天から見放され荒れる庚の治政と、寿白時代の飛牙を知る宦官・裏雲や王太后が抱えていた秘密。明かされた事情と混乱の最中で上手く立ち回った飛牙が、どうにかこうにかうまく取りまとめたなあと思えた結末でしたけど、裏雲との今後も気になりますし、この感じだと天下四国を旅する感じになるんですかね。続巻も楽しみにしています。

 

 

屋上のテロリスト (光文社文庫)

屋上のテロリスト (光文社文庫)

 

 ポツダム宣言を受諾せず東西に分断された日本。七十数年後、高校の屋上で出会った不思議な少女・沙希からアルバイトに誘われた彰人が、彼女の壮大なテロ計画に巻き込まれてゆく物語。両親も亡くなって目的もなく死に魅入られていた彰人。彼に協力を求めた沙希が、思惑ある権力者たちをも巻き込んで邁進する真の目的。緊張が高まってゆく状況で大人たちの間を動き回り、ギリギリの駆け引きが続きながらも切り抜ける覚悟を見せた沙希と、彼女と一緒に最後まで走り抜けた彰人が最後に迎えた結末はとても素敵なものだったと思いました。面白かったです。

カカノムモノ (新潮文庫nex)

カカノムモノ (新潮文庫nex)

 

 悪夢を見続けるOL、穢れを内に抱える大学生、兄夫婦の子供を預かる花屋。「カカノムモノ」謎の美貌の青年・浪崎碧が、時に人を追い詰めてまで心の闇を暴き解決してゆく物語。昏い想いが育つことで生み出される大禍津日神と、一族の事情から人として生きてゆくためにそれを食らわねばならない碧の宿命。訳ありそうなカメラマン・桐島とともに闇を抱えた人を探し出して穢れを払うシリアスな過程には、ごくありふれたままらない日常の積み重ねがあって、宿業を抱えた碧を取り巻く事情がどのように変わってゆくのか続刊に期待したい新シリーズですね。

長崎・オランダ坂の洋館カフェ シュガーロードと秘密の本 (宝島社文庫)

長崎・オランダ坂の洋館カフェ シュガーロードと秘密の本 (宝島社文庫)

 

 長崎の女子大学に入学した東京出身の日高乙女。バイトで不採用続きの乙女がオランダ坂の外れに不思議な洋館カフェを見つけ、そこで不機嫌顔のオーナーと一緒にバイトとして働くようになる物語。東京っぽさがないとある作家の熱烈大ファンな天然の乙女と、本業が不明で雨降る夜にしか開店しない無愛想で謎めいたカフェ・オーナーの向井。長崎の美味しいものがたくさん紹介されつつ、それと少しずつ増えてゆくお客さんとのエピソードや積み重なってゆく向井への想いがとてもいい感じに組み合わさって、不器用な二人を見守りたくなる素敵な物語でした。

キネマ探偵カレイドミステリー (メディアワークス文庫)

キネマ探偵カレイドミステリー (メディアワークス文庫)

 

 留年の危機に瀕するダメ学生・奈緒崎が教授から救済措置として提示された難題は「休学中の嗄井戸を大学に連れ戻せ」。引きこもりの嗄井戸と奈緒崎が謎を解決する連作短編ミステリ。映画鑑賞に没頭して家から出ない嗄井戸が安楽椅子探偵よろしく事件を見通してみせる役割で、腐れ縁で彼の家を訪れるようになった奈緒崎が動くコンビ。二人を中心とする物語は一方で彼ら二人の不器用な友情の物語でもあり、キッパリサッパリなヒロイン・束ちゃんもいい感じに効いてテンポも良く、なかなか面白かったと思います。続編あるならまた読んでみたいですね。

 青森での田舎生活を厭いクリエイター職に憧れ上京した哲太。しかしブラック企業で限界を迎えて脱落し、人生に行き詰った彼が憧れだったクリエイティブ・ディレクターを捜し始める物語。好きな人も仕事も生きがいも一度に失った哲太が、中目黒のシェアオフィスで出会った仲間と協力し、顧客が始めたいカフェのプロデュースに挑戦する展開。一度は挫折した哲太もこれまでいろんなことに挑戦してきたことが無駄になっていなくて、仲間や顧客ときちんと向き合って頑張ろうと奔走するその思いは熱く心に響きました。続巻あるなら仲間の掘り下げも期待。

シマイチ古道具商: 春夏冬(あきない)人情ものがたり (新潮文庫nex)

シマイチ古道具商: 春夏冬(あきない)人情ものがたり (新潮文庫nex)

 

 生活を立て直すため大阪・堺市にある夫の実家「島市古道具商」へ引越し、義父と同居をすることになった透子一家。古い町家で紡がれるモノと想いの人情物語。両親を早くに亡くして社会経験にも乏しく、家族を取り巻く現状がこのままでいいのか思い悩む透子。お店を通じて義父やお客と一緒に古道具や人間関係に関わるようになったり、子供たちや夫ともなかなか上手くいかない状況になりかけたりな彼女は色々と大変でしたけど、多くの人に見守られていたことに気付いた彼女が、本当に大切なもののために周囲と協力して奔走する姿は強く心に響きました。

あした世界が、 (小学館文庫)

あした世界が、 (小学館文庫)

 

 音楽会社に勤める吉山朗美と、社長に契約解除され怒り狂う同級生のスーパースター・絹川空哉。十年前の高校時代にタイムスリップした朗美が当時の心残りをやり直す物語。極度のあがり症を抱える冴えない女子高生だった朗美。空哉と蓮に急接近していく一方で、すれ違い続けていた父との関係。無難に生きるしかなかった高校時代の人間関係も十年後の自分には大したことには思えなくて、だからといってままならないこともたくさんあって。それでも逃げずに困難に向き合った朗美の決断が、当時も今も変えてゆく結末は清々しい読後感で面白かったです。

ゲームセットにはまだ早い (幻冬舎文庫)

ゲームセットにはまだ早い (幻冬舎文庫)

 

 様々な事情で集まってきたはみ出し者のメンバーたちが、ど田舎のスーパーなどで働きながら、一緒にクラブチームの野球で社会人全国制覇を目指す物語。かつての過去の栄光だったり、自分の夢と家族との間の葛藤だったり、なかなかうまく行かずに拗らせてしまっている想いにどう向き合って、難しい環境の中でも好きなことをやり抜くのか。社会人野球を扱ったという点でも興味深く、分かりやすくプロを目指すことだけが野球をやる理由ではなくて、不器用にぶつかり合いながらチームとして一つにまとまってゆく彼らの奮闘は心に響くものがありました。

終電の神様 (実業之日本社文庫)

終電の神様 (実業之日本社文庫)

 

 父危篤の報せに病院へ急ぐ会社員、納期が迫ったエンジニア、背後から痴漢の手が忍び寄る美人...。それぞれの場所へ向かう人々を乗せた夜の満員電車が事故で運転を見合わせて、それが転機に繋がってゆく物語。たまたま深夜の満員電車に居合わせたことで同じ時間を共有した人々のエピソードが綴られる連作短編集で、積み重ねられていった思いだったり、秘密にしていた意外な一面だったり、決断を胸に秘めての乗車だったり、それぞれが抱えていたほろ苦い思いやその決断が良かったと思える結末に繋がっていて、なかなか素敵な物語になっていました。

 

 

彼女の色に届くまで

彼女の色に届くまで

 

 画廊の息子で幼い頃から才能を過信し画家を目指している緑川礼。しかしいつの間にか冴えない高校生活を送っていた礼が、無口で謎めいた同学年の美少女・千坂桜と出会うアートミステリ。礼が衝撃を受けた原石のような彼女の絵の才能。その推理で礼の窮地を救ってみせる桜の意外な一面と、共に過ごすようになってゆく日々。圧倒的な才能を前に平凡な自分を突きつけられる葛藤と少しの打算、生活力皆無な桜が気になって飼育係として世話を焼いてしまう礼の複雑な想いが悩ましいですが、それでも不器用な二人らしい結末はとても素敵なものに思えました。

禁じられたジュリエット

禁じられたジュリエット

 

 ミステリ小説が退廃文学として禁書扱いな世界観の日本で、それに触れてしまった女子高生6人が囚人として収監され、看守役2名を加えた8名で更正プログラムに参加させられる本格ミステリ。プログラムを早く切り上げられるよう協力するはずだった友人8人。役割に徹するうちに急速に対立を深めてゆく描写はあまりにも過酷で、二転三転してゆく展開には驚かされ、追い詰められた参加者たちの叫びは痛切で心に響くものがありましたが、終わってみるとなぜか清々しさすら感じてしまったその読後感に著者さんの深い本格ミステリ愛を見る思いがしました。

ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん

ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん

 

 今まですれ違い続けてきた父が癌で胃を全摘出したことをきっかけに、もう一度やり直したいと考えた息子がオンラインゲームのファイナルファンタジーXIVに父を誘い、正体を隠して父と共に冒険に出るブログ連載の書籍化。齢60を超えるお父さんの光の戦士計画。仲間の協力も得ながら密かにゲームの中での父の成長を見守る展開は、天然の父らしい姿やこれまで知らなかった一面を知ってゆく息子の反応が興味深ったですね。思わぬ展開やほのぼのした場面と、一緒にミッションを乗り越える緊迫感のあるチャレンジもメリハリが効いていて楽しめました。

江の島ねこもり食堂

江の島ねこもり食堂

 

 島の猫の世話をするとある江ノ島の食堂<半分亭>の隠れた仕事。代々「ねこもりさん」と呼ばれる女たちの生きたそれぞれの人生と、新しい命を結び未来を繋いでいく百年物語。猫とお客さんに助けられて続いてきたねこもりさんの半分亭。ひいおばあちゃんのすみゑ、祖母・筆、母・溶子、そして麻布。時代背景も半分亭を取り巻く事情も様々ながら、江ノ島やねこもりさんという仕事への思いや多くの人に支えられ人生を精一杯生きてゆく姿、紆余曲折はあってもそれが受け継がれ、百年前の約束が果たされてゆくその結末には強く心に響くものがありました。

密偵手嶋眞十郎 幻視ロマネスク

密偵手嶋眞十郎 幻視ロマネスク

 

第一次世界大戦後、極秘で設置された保安局六課でスパイとして国内の防諜活動を行っていた手嶋。ある事件をきっかけに目を付けた陸軍の武器密売疑惑の潜入捜査でカフェで働く落ちぶれた華族の令嬢・悠木志枝と出会うスパイアクション・サスペンス。手嶋が追う武器密売疑惑の鍵を握る少女・志枝が持つ特殊な力。そして手嶋の前に立ちはだかる旧知の陸軍士官・高柳。関東大震災直前の二転三転する状況で陰謀の核心がどこにあるのか駆け引きしつつ、その阻止と彼女を救うために奔走する展開はテンポも良く、余韻の残る結末がとても印象的な物語でした。

麻布ハレー

麻布ハレー

 

 76年ごとに地球へ接近するハレー彗星。1910年に天文台で出会った不思議で美しい女性・晴海と、売れない小説家志望の国善。ハレー彗星の出現とともに恋が始まる物語。どんどん天文にのめり込んでゆく国善の下宿先の子供・栄。一方で国善の作家としてのありように葛藤する姿や、彼への想いは感じるのに晴海との縮まりそうで縮まらないもどかしい距離感はとても切なくて、ハレー彗星と共に明かされる真実と交わされた約束がプロローグに繋がり果たされる結末は、振り返ると出版社や著者さんらしさを感じられる切なくも素敵な物語だと思えました。