読書する日々と備忘録

主に読んだ本の紹介や出版関係のことなどについて書いています

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2017年3月に読んだ新作おすすめ本

 というわけで3月の新作おすすめ本です。3月は刊行点数そのものが多い時期で、予算は有限なのでいつもセレクトに苦労していますが、それでも読んだ新作はなかなか豊作で今回24点をセレクトしました。それにしても今回の電撃小説大賞は強烈ですね。全部読んだわけではありませんが、読んだ本はいずれも十分なインパクトがありました。

賭博師は祈らない (電撃文庫)

賭博師は祈らない (電撃文庫)

 

第23回電撃小説大賞<金賞>

 十八世紀末ロンドン。うっかり大金を得た賭博師ラザルスが仕方なく購入させられたのは、喉を焼かれて声を失った奴隷の少女・リーラ。不器用な二人が戸惑いながらも心通わせてゆく物語。師の教え通り勝たない賭博師としてこれまで生きてきたラザルスの失敗。放り出すわけにもいかず感情に乏しいリーラを教育しながら一緒に生活するようになる日々。徐々に打ち解けてゆく二人の拙い関係の変化が繊細な積み重ねで描写されていて、強奪されたリーラを奪還するため冷静に計算して最後まで完遂してみせたラザルスのありようがとても見事で心に響きました。

オリンポスの郵便ポスト (電撃文庫)

オリンポスの郵便ポスト (電撃文庫)

 

第23回電撃小説大賞<選考委員奨励賞> 

度重なる災害と内乱が続いた火星で長距離郵便配達員として働く少女・エリスが、改造人類・クロを神様がどこへでも誰にでも届けてくれるというオリンポスの郵便ポストまで届ける仕事を依頼される物語。入植時代からの生き残りのクロと、両親を探して郵便配達員を続ける少女の二人による長い旅路。その過程で多くの人に出会い、いくつもの困難に遭遇することで絆が育まれてゆき、それぞれが秘密を抱え意外な縁もあった二人が想いを通わせてゆく物語は、その真実に近づいてゆくたびに切ない気持ちにもなりましたがとても良かったですね。次回作も期待。

ひきこもりの弟だった (メディアワークス文庫)

ひきこもりの弟だった (メディアワークス文庫)

 

第23回電撃小説大賞<選考委員奨励賞>

 突然見知らぬ女性に三つの質問を問いかけられた雪の日。誰も好いたことがない掛橋啓太が問いかけた大野千草と夫婦になり、平穏な彼女との生活の中で過ぎ去った過去の日々を追憶させてゆく物語。お互いの過去を知らないまま三つの質問という契約によって夫婦になった二人。引きこもりの兄と共依存関係にあった母との辛い過去。徐々に惹かれ合っているのを自覚するがゆえに、じわじわと重くのしかかってゆく三つ目の質問。それぞれが抱える壮絶な過去も二人でなら乗り越えられると思えただけに、淡々と綴られたその不器用な結末には衝撃を受けました。

 

白翼のポラリス (講談社ラノベ文庫)

白翼のポラリス (講談社ラノベ文庫)

 

第6回講談社ラノベ文庫新人賞<佳作> 

人々が陸地のほとんどを失い、いくつかの巨大な船に都市国家を作ってわずかな資源を争う世界。船国を行き来して荷物を運ぶスワローの少年・シエルが、無人島に流れ着いた謎の少女・ステラと巡り合うボーイミーツガール。空を飛ぶことにしか生きる意味を見出だせないシエル。理由を明かさないまま自分を荷物として運んで欲しいと依頼するステラ。その飛行は息苦しかった彼らにとって新鮮だけれど危険の連続でもあって、たびたび衝突しすれ違った彼らが力を合わせて乗り越えようと挑んだそのとても爽やかな結末は、次回作も期待したくなるものでした。

 密かに朗読配信する高校生の前河響平と幼馴染だった卯城野こぐちが鎌倉のとある高校で偶然再会。こぐちが所属する図書部と旧図書室廃止の危機に二人で書評バトル「ビブリアファイト」に挑むスピンオフ作品。密かにラノベが大好きな響平と、引っ込み思案だけれど児童書が好きで本に関しては人が変わるこぐち。周囲もからかう不器用な二人の距離感や図書部存続を賭けての定番古典を中心とする書評バトルをベースに、ビブリア古書堂のあの人たちもアドバイス役として登場。ラノベらしいテイストをうまく組み合わせた青春小説としても面白かったです。

 しがないゲームディレクターで会社は倒産、企画も頓挫して実家に帰ることになった橋場恭也。輝かしいクリエイターの活躍を横目にふて寝して目覚めると、なぜか十年前の大学入学時に巻き戻っていた青春リメイクストーリー。落ちたはずの大学に受かっていて憧れの芸大ライフ、さらにはシェアハウスで男女四人の共同生活。とはいえ同居人はそれぞれキラリと光るものを持っているのが垣間見えてしまう厳しい現実。今回はこれまでの経験を活かして存在感を出せましたけど、まだまだ試される状況は続きそうで、気になる人間模様も含めて続巻が楽しみです。

第1回カクヨムWeb小説コンテスト<特別賞> 

好意を寄せるクラスメイト・愛原そよぎの悩み事は想像を遥かに超えるもの。本気とも冗談ともつかない相談に真剣にアドバイスを送る二人による非日常系お悩み相談日常ラブコメ。秘密のはずなのにバレバレな質問をする天然娘・そよぎと、彼女に惹かれ気づかないふりをして真摯に答えてあげる幸助。そよぎだけでなく彼女の友人や弟・雪弥にも振り回されるドタバタ展開で、けれどそよぎが抱える秘密と次々と明らかになってゆく切ない過去や複雑な事情は切なくて、それでも周囲の人たちがいたからこそ迎えられたほっとする結末はなかなか良かったです。

縛りプレイ英雄記 奇跡の起きない聖女様 (角川スニーカー文庫)

縛りプレイ英雄記 奇跡の起きない聖女様 (角川スニーカー文庫)

 

 凶悪すぎる見た目の高校生・仁王院陣が、回復魔法の失われた異世界に転移し、回復魔法が使えない聖女と出会って先行き不安な旅をする物語。異世界に来てトラウマのある道具を召喚できるようになった陣と、お人好しで今の状況に責任を感じている聖女・マリー。見た目で誤解されがちですが、誤解されることを恐れずにマリーを気遣い、他人のために奔走する陣を彼女はきちんと見ていて、わりといいコンビな二人でしたね。召喚契約も結んで仲間も増えそうなドタバタの道中がこれからどのようなものになるのか、続巻が楽しみな新シリーズです。

モノクローム・サイダー あの日の君とレトロゲームへ

モノクローム・サイダー あの日の君とレトロゲームへ

 

 高校最後の夏を迎えた平凡なゲームオタクの高校生・百式長之介が、昼休みの屋上でゲームをしている女の子・鯨武由美と出会い人生が動き出す自伝的小説。最初は彼女の前を通るくらいで精一杯だった彼が、勇気を出して声を掛けたことで始まった一緒にゲームをするようになる日々。なかなか思うようにいかないことばかりでしたけど、不器用でも諦めずにきちんと向き合おうと奮闘する百式くんと、共に過ごす日々を送るようになった鯨武さんが二人らしい形で積み重ねてきた関係がとても素敵だと思いました。続編もまた書籍で読めること期待しています。

 天才錠前師・トマスの養女として育てられた少女・マージ。トマス亡きあと錠前店を継いだマージの元に伯爵家の若き当主・アレックスが破格の報酬で解錠依頼を持ってくるスチームパンクミステリ。複雑な事情を抱えた侯爵家の遺産相続を巡る解錠依頼。なぜか伯爵家で丁重な対応を受けて困惑するマージ。侯爵家の過去の事件の真相と明らかになる真実。物語の筋としては分かりやすいシンプルなものでしたが、ハッキリとした性格のマージや軽そうで意外と真摯なアレックスなど登場人物たちも魅力的に描かれていて、最後まで気持ちよく読めた物語でした。

 

君に恋をするなんて、ありえないはずだった (宝島社文庫)

君に恋をするなんて、ありえないはずだった (宝島社文庫)

 

 勉強合宿の夜に困っていた同級生の北岡恵麻を助けた地味で冴えない飯島靖貴。それをきっかけに密かな交流が生まれてゆく地味系眼鏡男子と人気者ギャルのすれ違いラブストーリー。入学直後の出来事で恵麻に苦手意識を持っていた靖貴と、助けてくれた靖貴が気になってゆく恵麻。学校では知らんぷりだけれど予備校帰りのわずかな時間で育まれてゆく二人の交流。少しずつ想いが積み重なってゆくのに、繊細で不器用な二人が距離を詰め切れないうちに起きる様々なすれ違いがとても切なかったです。気になるところで終わってしまったので早めに続きが読みたい注目の作品です。

 山中にある屋敷の座敷牢で出会った少女ツナ。怖い話を聞かせることを条件に週一回会うことを許されたミミズクが十年目に転機を迎える物語。育ての親や友人にもツナのことを隠し続けてきたミミズクこと瑞樹。かつて投稿した怪談記事が縁で多津音一と出会ったことにより徐々に明かされてゆくツナを巡るからくり。丁寧で繊細なことばによって恐怖が描かれる一方で、瑞樹がきちんと向き合ったことで明らかになった真実は思わぬ奇跡にも繋がっていて、どうにか折り合いをつけて迎えたその結末は、これまでの想いが報われたとても素敵なものに思えました。

雨の降る日は学校に行かない (集英社文庫)

雨の降る日は学校に行かない (集英社文庫)

 

 スクールカースト保健室登校…学校生活に息苦しさを感じる女子中学生たちの揺れ動く心を綴った連作短編集。短編の主人公は自分の居場所を見いだせない女の子たち。時が経てば分かることも、今見えている世界だけではなかなか分からないんですよね。誰もが不安を抱えていて閉塞感のある世界は些細なきっかけで変わる。周囲のストレートな悪意に葛藤しながらも向き合い変わっていこうとする少女たちを描いた物語は、雨上がりのようなこれから良くなる期待を予感させる読後感でした。スカートの長さとカーストを対比させてみせる視点もまた秀逸です。

ハッピー・レボリューション (メディアワークス文庫)

ハッピー・レボリューション (メディアワークス文庫)

 

 ゆるい部署に馴れきってしまい、気づけば20代最後の日を目前に焦りだした流され体質のOL夢子。空回り続きだった彼女がふとしたきっかけから一念発起して奮闘する物語。これまで共に受験や就活を乗り切ってきた脳内軍曹と自己変革に挑むも、うまくいかないことだらけで夢子に突き刺さる厳しい現実。前作の二人も甘々な恋人同士として登場したりで、ストーリーとしても分かりやすいベタな展開でしたけど、彼女を助けてくれる周囲の人たちにいい意味で感化され、彼女の頑張りによって周囲も変わってゆく好循環は読んでいて気持ちいい読後感でした。

 

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繰り返されるタイムリープの果てに、きみの瞳に映る人は (メディアワークス文庫) 

 作者:青葉優一

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/03/25
  • メディア: 文庫

順風満帆だったはずの慶介と亜子の関係。しかし突然亜子に別れを告げられた慶介に数か月前にタイムリープするという機会が与えられ、別れを回避すべく試行錯誤するファンタジー・ラブストーリー。突如態度が豹変した亜子の取り付く島もない別れの謎。代償を払いながらもタイムリープを繰り返す慶介の奔走がことごとく空振りに終わる回避の手立て。半ばで迎えた思わぬ真相と展開から今度は亜子がタイムリープに挑むことになり、ギリギリの綱渡りでも懸命にしたたかに乗り越えようとする彼女が引き寄せた結末に、お互いの強い想いを改めて感じました。

きみがすべてを忘れる前に (宝島社文庫)

きみがすべてを忘れる前に (宝島社文庫)

 

 放課後の教室で同級生だった長谷川紫音の幽霊と出会った霊感体質の結城クロ。そんな彼が紫音と一緒に学内にいる幽霊たちの心残りを解消してゆく切ない青春ラブストーリー。想い人で幽霊になってしまっている紫音とずっと彼女を支えてきた志郎、クロの複雑な三角関係。幽霊に対してそれぞれ異なる力を行使できるクロの三姉妹の力を借りて校内の幽霊問題を解決しながら、徐々に明かされる紫音の事情とその核心。明かされた真実はそれまでの流れからするとやや意外でしたけど、残された希望がどういう結末を迎えるのか最後まで読めることを期待します。

 幼少時に負った顔の傷が原因で周囲と馴染めず、高校を中退した直哉。そんな彼が星好きな不思議な青年・蒼史と出会い、その小学生の妹・桜月と営む天文館に通うようになる物語。根も葉もない噂に振り回され、親ともわだかまりを抱えていた直哉。複雑な事情があってお互いに少し遠慮のある蒼史と桜月。少しずつ足りない部分があった彼らが補い合うような関係を築いてゆくことで少しずつ周囲との交流も増えてゆき、誤解から危機的状況に陥りかけたりもしましたが、それを乗り越え未来へ向けて一歩踏み出すことを予感させる結末はとても心に響きました。

 ペンとノートを買えば店主が自分のためだけに物語を書いてくれる小さな文房具店「水沢文具店」。その謎めいた店主・龍臣と悩める小学校教師・栞、訪れるお客たちのエピソードが綴られる物語。教師を続けてゆくことに自信を持てない栞。彼女や元店主だった祖父の友人、書けなくなった作家といった店を訪れる悩める人たちの話を聞いて物語を書く龍臣。彼自身も抱える過去があって、物語の提示によって明確な解決方法が提示されるわけではないものの、辛い時に共感して背中を押してくれる、前を向けるきっかけの大切さをこの物語から改めて感じました。

律儀なひと

律儀なひと

 

 姿は見えないものの亡くなったばかりのおばあちゃんの声が聴こえるようになった貴雅が、おばあちゃんの叱咤激励に振り回されながらも悩める仕事や恋への向き合い方を変えてゆく物語。仕事では歳下の社員や上司に言いたいことも言えず、気にかけてくれている武田さんにも優柔不断な貴雅。心理としてすごくよく分かるけれど、これじゃおばあちゃんも成仏できないよねと思ってしまうような状況でしたが、自分らしく相手にきちんと向き合えるように努力するようになってゆく貴雅の頑張りはとても好ましいもので、切ないけれど心に響く素敵な物語でした。

君が描く空 - 帝都芸大剣道部 (中公文庫)

君が描く空 - 帝都芸大剣道部 (中公文庫)

 

 東京藝術大剣道部に事情があって三年生になってから入部してきた唯。それを指導することになった主将の壮介と、剣道部員たちが織りなす青春群像劇。複雑な家庭の事情を抱えながらも、画廊への契約条件として提示された初段を取ることを承諾した唯。割り切った唯の言動に戸惑い心配する一方で、憧れの部員・綾佳への想いにも揺れる壮介。そろそろ進路を意識せざるをえない部員たちが突きつけられる才能とそれに向き合う覚悟はシビアで、各々が直面する状況もまたほろ苦かったですが、それでも変わらない想いが垣間見える結末はとても心に響きました。

少女キネマ 或は暴想王と屋根裏姫の物語 (角川文庫)

少女キネマ 或は暴想王と屋根裏姫の物語 (角川文庫)

 

 二浪で中堅私大に入学するも目標を見失っていた十倉和成20歳。そんな彼のボロ下宿の天袋をセーラー服姿の少女・さちが住処としていることが判明し、庇護しようとしたことから物語も動き出す青春小説。十倉が動き出すきっかけとなったさちの出現。停滞の原因となった高校時代の親友・才条の謎の死。やや時代がかった言い回しが多かった停滞の前半はテンポが悪かったですが、そこから親友の死の謎を追い、志を受け継いで映画にのめり込んでいく怒涛の展開は読ませるものがありました。ファンタジーじみた結末も最後で救われてなかなか良かったです。

死と呪いの島で、僕らは (角川ホラー文庫)

死と呪いの島で、僕らは (角川ホラー文庫)

 

 沈没船が漂着した伊豆諸島東端にある須栄島。そこで村八分気味に扱われる美少女・椰々子と彼女が気になる同級生で名家の次男・杜弥たちが、島で起きる異変に巻き込まれてゆく青春ホラー。最初は親友の徹も含めた三人で謎解きするお話かと思って読んでいたのですが、海で死んだ男が甦り、巨大な人喰い鮫が現れ、さらにはブードゥー教などこれでもかと詰め込まれたカオスな状況。結果として終盤思わぬ展開になりましたが、あれだけ広げつつうまくまとめてみせたのは見事で、終わってみれば不思議と爽やかさすら感じさせる青春小説になっていました。

計画結婚 (文芸書)

計画結婚 (文芸書)

 

 とてつもない美人で頭もいいけど妙なところにこだわる久曽神静香が結婚?幼稚園からの唯一の友人や久曽神に恋をした美容師といった彼女に関わった人たちが、戸惑いながらも招待された結婚式に出席する物語。出席した友人によって語られる過去にあった静香の強烈なエピソード。一方で明かされてゆく新郎側出席者たちの事情と暴かれた新郎の過去。読めば読むほど何でこのような状況になったのかますます分からなくなっていきますが、そんな奇想天外に思える決断にも彼女にとっては確固たる理由があって、テンポよく進むストーリーは面白かったですね。

ぼくのとなりにきみ

ぼくのとなりにきみ

 

慎重で落ち着いた中学生のサクが、スポーツ万能で天真爛漫なハセや天然気味の同級生のチカとともに地元の古墳にまつわる謎の暗号解明に挑む青春小説。父親や妹との関係にもやもやしたものを抱える一方で、時には言動にイライラしつつチカのことが気になってゆくサク。言いたいことも言えなくて屈折した想いを抱えていた彼が、三人で謎解きを進める過程で事件解決に奔走したり暗号の意外な真実を解き明かしつつ、そんな積み重ねの先に変わるきっかけとなる着実な一歩があって、それを今後に期待感を抱かせる結末に導いてみせた素敵な物語でした。