読書する日々と備忘録

主に読んだ本の紹介や出版関係のことなどについて書いています

2017年2月に読んだ新作おすすめ本

 2月はついに「ビブリア古書堂の事件手帖」が完結したり、「最果てのパラディン」が思っていた以上に面白かったり、続巻でも興味深い本がなかなかありました。新作自体はそれほど手を出していなかったので今回はそれほど多くないですが、それぞれなかなか面白かったので興味があったら是非読んでみて下さい。

 

86―エイティシックス― (電撃文庫)

86―エイティシックス― (電撃文庫)

 

 帝国の無人兵器レギオンによる侵略を受け、有色人種を差別し戦わせてしのいでいた共和国。そんな若者たちを率いる少年・シンと、後方から彼らの指揮を執るハンドラーとなった少女・レーナが出会う物語。人権を認められない有人の無人機として戦い続ける「エイティシックス」の若者たち。現状に疑問を持つもののその過酷さを本当の意味では分かっていなかったレーナ。次々と仲間が死んでゆく厳しい状況で彼らに突きつけられる指令には絶望的な気持ちになりましたが、因縁にもきちんと決着を付け迎えた意外な結末はとても良かったですね。続編も期待。

豚公爵に転生したから、今度は君に好きと言いたい (ファンタジア文庫)

豚公爵に転生したから、今度は君に好きと言いたい (ファンタジア文庫)

 

 大人気アニメの嫌われ豚公爵に転生した主人公が、身分を秘した亡国の王女で今は自分の従者・シャーロットに告白するため、熟知するバットエンドを回避するべく奮闘する物語。才能に溢れて将来を嘱望された存在だったはずの豚公爵が、それを投げ捨ててしまった密かな理由。どこか悪徳令嬢ものっぽい雰囲気がある展開でしたが、落ちぶれていた豚公爵の決意とひたむきな想いは素直に応援したいと思えましたし、その評価を覆す奮闘ぶりはとても良かったですね。途中からやや物語に置いて行かれた感もあったメインヒロインでしたけど、今後の活躍に期待。

佐伯さんと、ひとつ屋根の下 I'll have Sherbet! 1 (ファミ通文庫)

佐伯さんと、ひとつ屋根の下 I'll have Sherbet! 1 (ファミ通文庫)

 

 高校二年生の春、ひとり暮らしを始めるはずだった弓月恭嗣が、不動産屋の手違いでひとつ年下の帰国子女・佐伯貴理華と同居するはめになってしまう物語。無防備な距離感で接してきて家の中と外とでは印象が違う佐伯さんと、苦い過去を持つがゆえに家の外では一定の距離を置こうとささやかな抵抗を続ける弓月くん。表情豊かでキャラとしてもよく動いている佐伯さんとの同居生活が弓月くんを少しずつ変えていって、その変化がクールな弓月くんの元カノ宝龍さんや周囲の友人たちにもまた影響を及ぼしてゆく展開はとても良かったです。続巻が楽しみです。

月とライカと吸血姫 (ガガガ文庫)

月とライカと吸血姫 (ガガガ文庫)

 

 連合王国より先に人類を宇宙へ到達させるべく、共和国の最高指導者はロケットで人間を軌道上に送り込む計画を発令。実験体として選ばれた吸血鬼の少女・イリナと監視係に任じられた候補生レフの物語。蔑まれる境遇から自由を得るため実験体として志願したイリナ。そんな彼女に最初は戸惑いながらも、共に過ごし訓練するうちに大切な存在として思うようになってゆくレフ。あくまで実験体としてか扱われない彼女の境遇には厳しいものがありましたが、乗り越えて見せた彼女たちの未来が明るいものであることを信じたくなる素敵な物語でした。

最強魔法師の隠遁計画1 (HJ文庫)

最強魔法師の隠遁計画1 (HJ文庫)

 

 魔物が跋扈する世界。16歳という若さで軍役を満了し、退役を申し出若き天才魔法師のアルス。しかし手放したくない国の申し出で魔法学院に通い、後任を育成することになる物語。10万人以上いる魔法師の頂点に君臨しながら、楽をする方法を研究したいアルス。ふとしたきっかけから彼に教わることになったツンデレ貴族フィアと優しいアリス。隠遁計画のはずが結果的に育成計画に巻き込まれた感もありますが、最初に出会いながらなかなか素直になれないフィアが地歩を固める前に強力過ぎるライバルが出現しどうなるか、続巻が楽しみです。

神様は少々私に手厳しい 1 (プライムノベルス)

神様は少々私に手厳しい 1 (プライムノベルス)

 

 グラース国に転移した須山一樹は年下の少年ルーナと恋に落ちたものの日本に戻されてしまい、なぜか十年後のかつての敵対国に二度目の異世界転移を果たす物語。いい感じなところを戻されて、再び十年後の敵国に転移させられる設定からしてドタバタしていますが、珍妙な言動だったカズキが十年後の転移世界では「黒曜」として驚くほど美化されていて苦笑いですね。わりと再転移先でも恵まれていて、意外と早とちりなルーナとの再会も早かったですけど、黒曜の地位を狙う陰謀に巻き込まれてゆくドタバタ劇は楽しかったですし続巻も期待です。

 

 きちんとゲラを読んで理解し、本の表情を生み出すのが装幀家の役割だと信じる本河わらべが、出版社の合併で本の内容には目を通さない主義の巻島と組むことになり、ことあるごとに衝突しながらも本の装幀を作り上げていく物語。最初はゲラを読む読まないだけでなく、本に似合う装幀を作りたいと思うわらべと、多少強引でも売上に繋がるような装幀を意識する巻島が毎回衝突して苦笑いでしたけど、試行錯誤していく過程で徐々に連携も取れるようになったり、二人がそんな装幀を意識するきっかけに思わぬ顛末が待っていたりとなかなか楽しく読めました。

君は月夜に光り輝く (メディアワークス文庫)

君は月夜に光り輝く (メディアワークス文庫)

 

 大切な姉の死からどこかなげやりに生きていた岡田卓也が、友人に頼まれ「発光病」で入院したままのクラスメイト・渡良瀬まみずと出会ったことで止まっていた二人の時間が再び動き始める物語。余命を宣告されたまみずに死ぬまでにしたいことがあると知らされ、それに協力することを約束した卓也。無茶振りされても奮闘する卓也がなかなか自覚できない自らの想いや、気持ちを伝えることに躊躇するまみずの距離感がもどかしかったですが、遠回りこそしたものの相手に真摯に向き合い大切に思う気持ちを伝え合った、切なくも心の琴線に触れる物語でした。

最良の嘘の最後のひと言 (創元推理文庫)

最良の嘘の最後のひと言 (創元推理文庫)

 

 世界的な大企業ハルウィンが年収8000万で超能力者をひとり採用する告知を出し、自称超能力者7名が採用日前日夜に街中で行われる最終試験に臨む物語。当日の時点で1通しかない採用通知書を持っていた人が採用される試験。特異な能力を活かし自らの目的を果たそうと参加した候補者たち。状況に応じて候補者が手を組み騙し合いながら二転三転する展開で、それぞれの事情も明らかになっていくものの未だ隠されている部分があって、最後まで読めない状況に思えたのに、終わってみれば収まるべきところに収まったように思える結末に唸らされました。

ソウルトランサー (徳間文庫)

ソウルトランサー (徳間文庫)

 

 美少女ハッカー・ゴーストを追い詰めたものの、気がつくと彼女と魂が入れ替わってしまった特対のレド。魂交換者のゴーストことソネットと共に原因を突き止めるため犯罪者が潜む迷宮街へと乗り込む物語。迷宮街で同時多発的に発生した魂交換により混乱する状況で迷宮街の最深部を目指す二人。立ち位置も違い認識がズレている二人の会話は楽しくて、二転三転する状況に振り回されながらテンポよく進んでいくストーリー展開も良かったですね。もう少しその後が読めればなとは思ったもののスッキリと終わった結末で、今後の作品にも期待です。

すしそばてんぷら (ハルキ文庫)

すしそばてんぷら (ハルキ文庫)

 

 早朝のテレビ番組でお天気お姉さんをしている寿々が、事務所の発案で江戸まちめぐりのブログを開設することになり「江戸の味」を求めて歩き回る物語。小学生時代を過ごした下町で祖母とのんびりふたり暮らしをしている寿々。長く付き合ってきた人に婚約を破棄されたりでどこか元気のなかった彼女が、ブログ開設を機に新しい仕事が増えたり、iPadを駆使して検索するおばあちゃんや幼馴染と美味しい江戸の味に挑戦したりと、優しく人情味のある展開はとても良かったです。あまり進展しなさそうな幼馴染との関係含めて続編に期待ですね。

 

コバルト文庫で辿る少女小説変遷史

コバルト文庫で辿る少女小説変遷史

 

 雑誌コバルトの前身小説ジュニアから、WebマガジンCobaltまでの時代を追い、各時代の読者と「少女小説」の移り変わりを徹底追跡した一冊。コバルト文庫だけでなくX文庫やその他レーベルの変遷なども交えつつその歴史が語られていて、若木未生前田珠子桑原水菜あたりが活躍していた頃にがっつり影響を受けた覚えがある自分には、懐かしさとその後の推移になるほどなあという思いで興味深く読めました。書影があるともっとイメージしやすかったかもですが、それでもこれだけのボリュームをコンパクトにまとめていてとても良かったです。

「本をつくる」という仕事 (単行本)

「本をつくる」という仕事 (単行本)

 

 使われなくなった活字書体・秀英体の改刻事業、製紙工場の酸性紙から中性紙へと転換するプロジェクトにかける思い、活版印刷や校閲・校正、デザインなどのこだわり、海外エージェントの仕事など本を支えるプロに話を聞きに行くPR誌「ちくま」連載の書籍化。時代が変わっていく中でのこれまで本を支えてきたプロの矜持やこだわり、それを時には形を変えながらもその本質をうまく残して次代に引き継いでいくプロセスが描かれていて、昔を懐古するだけでなくこれからどうすべきなのか、登場した関係者たちの固い信念には感じるところが多かったです。

ぼくのミステリ・クロニクル

ぼくのミステリ・クロニクル

 

 東京創元社で長く編集者として活躍し、数多くの新人作家を発掘し戦後の日本ミステリ界を牽引した名編集者、戸川安宣さんの編集者人生を語り尽くした一冊。幼い頃の読書体験や自身が編集者になるまで、当時のミステリ界隈の事情や関わってきた企画や多くの作家さんたちのことがとても分かりやすい語り口で綴られていて、最初手に取った第一印象では分厚いなと感じましたが、それでも読みやすかったのはこの本の作り方が上手かったということですね。過去の出版業界を知る上での貴重な回想録という以上に、いろいろ感じることが多かった一冊でした。

本の時間を届けます

本の時間を届けます

 

三陸の廃校、瀬戸内の小さな島、東京の下町で、私設図書館や古本屋、ひとり出版社など「本が好き」な女性たちが選んだ「本にかかわる」自分らしい生き方が紹介された一冊。読んでいるともちろん転機やきっかけ、周囲の理解や後押しもあったとは思うんですが、何もないところから始めようとしたそのパワーやその思い切りの良さをとても感じますね。自分が感じたこと考えていること、やりたいと思うこととはまた違う形のアプローチですけど、こういう形で思いを伝えていきたいと自分なりに頑張っている人たちのことは素直に応援したいと思えました。