読書する日々と備忘録

主に読んだ本の紹介や出版関係のことなどについて書いています

※弊サイト上の商品紹介にはプロモーションが使用されています。

【年末企画その4】独断と偏見で選ぶ16年刊行の一般文庫・単行本

というわけで最後の第四弾・一般文庫・単行本編です。

これまでエントリはこちら。


今年は一般文庫・ 単行本なども面白い作品がたくさんありました。ハヤカワ文庫や文春文庫・集英社文庫や幻冬舎文庫双葉文庫などでもライト文芸寄り・あるいは青春小説が刊行されるようになっていたり、よくよく気をつけてみるといろいろ作品を発掘できます。今回はその辺りの作品群を中心に紹介していきたいと思いますので、もし興味があったら是非読んでみて下さい。

 

まずはハヤカワ文庫で同時刊行になった2点から。

※最後に切なくなりたい人は『僕が』から、穏やかになりたい人は『君を』から読んで下さい。

 並行世界間が実証された世界。両親の離婚を経て母親と暮らす高崎暦が、地元の進学校で85番目の世界から移動してきたというクラスメイト・瀧川和音と出会う物語。入学時の因縁をきっかけに運命的な出会いを果たした、暦と和音の一見腐れ縁のようにも思える関係。同時刊行作品の出来事との関連性を織り交ぜつつ、並行世界が実在する世界ならではの問題に悩まされながらも、それを力を合わせて乗り越えてゆく二人はとても幸せだったんだろうなと思わせるものがありました。二つ読んで比べてみるといろいろ思うところが出てきてとても面白かったです。

 並行世界間が実証された世界。両親の離婚を経て母親と暮らす高崎暦が、地元の進学校で85番目の世界から移動してきたというクラスメイト・瀧川和音と出会う物語。入学時の因縁をきっかけに運命的な出会いを果たした、暦と和音の一見腐れ縁のようにも思える関係。同時刊行作品の出来事との関連性を織り交ぜつつ、並行世界が実在する世界ならではの問題に悩まされながらも、それを力を合わせて乗り越えてゆく二人はとても幸せだったんだろうなと思わせるものがありました。二つ読んで比べてみるといろいろ思うところが出てきてとても面白かったです。

 

イマジナリ・フレンド (ハヤカワ文庫JA)

イマジナリ・フレンド (ハヤカワ文庫JA)

 

 リアルではぼっちでも空想の友達「イマジナリ・フレンド」の美少女・ノンノンと楽しい日々を過ごす大学生やまじ。現状に小さな不安を感じた彼女が、似たような人々が集まるカンパニーへと彼を誘う物語。カンパニーで二人が知ったイマジナリ・フレンドとの様々なありようと、大人になると別れを迎える空想の友達との関係。大学では相変わらずキモい行動で周囲から浮きがちなやまじにも、その関係を大切にしてくれる人たちができて、絶対に失いたくない関係を取り戻そうと奔走した結末には、これもまたひとつのありようだと思える納得感がありました。

ノノノ・ワールドエンド (ハヤカワ文庫JA)

ノノノ・ワールドエンド (ハヤカワ文庫JA)

 

 暴力を振るう義父と受け入れるだけの母、いいことのない毎日が続き絶望する中学生ノノ。しかし突如白い霧に包まれた街から人々は消え、逃げ出した先で白衣の少女・加連と出会うガール・ミーツ・ガール。義父から逃げ出したノノと、現象に関わりながらとある目的のために組織から逃げ出してきた飛び級の天才少女・加連。偶然から出会った不器用な二人でしたけど、近づく終末を前にきちんと心残りを解決したい加連と行動を共にするうちに深まる絆と、お互いのためにという想いが感じられる切なく優しい物語でした。

血と霧1 常闇の王子 (ハヤカワ文庫JA)

血と霧1 常闇の王子 (ハヤカワ文庫JA)

 

 血の価値を決める階級制度に支配された巻き貝状の都市国家ライコス。その最下層にある唯一の酒場『霧笛』で探索業を営むロイスのもとに、少年ルークの捜索依頼が持ち込まれる物語。いかにもいわくありげなルークの素性と依頼者たち。自身も複雑な過去を抱え、何だかんだ言いながらもルークのために奔走するロイス。下層特有のハードボイルドっぽい雰囲気ながらロイスを取り巻く人間関係はわりとウエットで、明らかになってゆく複雑な背後関係が面倒と分かっていても関わってゆくロイスの不器用さがとても好みでした。全2巻。

あしたはれたら死のう (文春文庫)

あしたはれたら死のう (文春文庫)

 

 「櫻子さんの足下には死体が埋まっている (角川文庫)」の太田紫織さんによる青春小説。自殺未遂の結果、数年分の記憶と感情の一部を失ってしまった女子高生遠子。しかしなぜ死んでしまった同級生の志信と一緒に自殺を図ったのか、理由が分からずその原因を探るべく動き出す青春小説。以前とは明らかに変わった遠子の言動に戸惑う周囲の人たち。SNSに残されていた手がかりをもとに追う志信との関係や自殺の理由。志信と出会ってからの変化や彼のことを知ってゆくと、自殺を図った真相に切ないものを感じてしまいましたが、閉塞感のあった状況にも目をそらさずに真摯に向き合うようになった今の遠子のこれからを応援したくなりました。

天使は奇跡を希う (文春文庫)
 

ぼくは明日、昨日のきみとデートする (宝島社文庫)」 の七月隆文さんによる青春小説 今治の高校に通う良史のクラスに転校してきた本物の天使・優花。彼女の正体を知った良史が再び天国に帰れるよう協力することになり、幼馴染の成美と健吾も加わって絆を深めていく物語。一緒に行動してゆく過程で天使に良史が惹かれてゆくお話なのかと思いながら読んでいましたが、中盤で物語が反転したことで明らかになっていく一つの嘘と、知られざる悲壮な決意が秘められたもう一つのストーリー。再び辿ってゆく行動の一つ一つが持っていた意味に切なくなりましたが、それを最後の最後で悲劇で終わらせなかった仲間の絆には救われる思いでした。

 人知れず秘密を抱える成績優秀で家族思いの高校生・瑛人。密かに埋めていたくまのぬいぐるみを掘り出しにいった瑛人が、土の中に埋まった謎の女性を発見する物語。彼が拾ってきたアイスをあっさり受け入れてゆく家族にも驚きましたが、どこか歪んでいる状況がそのままであるはずもなくて、二転三転して何もかも一度はぶち壊されてゆく、勢いある怒涛の展開には著者さんらしさがありました。悩めるアイスもようやく吹っ切れて、瑛人も自分がどうしたかったのか気づけて良かったですけど、一人で拗らせてしまうとどうしていいか分からなくなりますね。

トオチカ (角川文庫)

トオチカ (角川文庫)

 

 親友と2人で鎌倉の小さなアクセサリー店「トオチカ」を営む里葎子。手痛い恋愛を乗り越えていたと思っていた彼女がバイヤーの千正と出会い、心揺さぶられてゆく不器用な大人の恋の物語。会えば行動の一つ一つが気になって苛立つ里葎子と、なぜかそんな彼女の地雷を踏みまくる千正。優しくされたり雑貨の趣味が似ていても素直になれず、距離感が分からなくなったり言葉の選択を間違えてしまう不器用な関係が、とあるきっかけから戸惑いながらもいい感じにまとまっていって安心しました。巻末の短編もいい感じに幸せ感を補足していて良かったですね。

ここは神楽坂西洋館 (角川文庫)

ここは神楽坂西洋館 (角川文庫)

 

 結婚直前に婚約者に浮気された小寺泉が、何もかも放り出して下宿先の「神楽坂西洋館」で大家の青年・藤江陽介や他の個性的な住人たちとともに住むことになる物語。傷つき疲れ果てた泉が下宿先に受け入れられて、住人や関係者たちとのやりとりや遭遇する出来事に関わってゆくうちに癒やされて、今の自分を見つめ直して新たな一歩を踏み出したり、西洋館の危機に大家の陽介を助けるために他の住人たちと共に奔走するようになったり、ちょっとした幸せを大切にできる生活がとてもいいなと思いました。二人の関係も気になりますね。現在2巻まで刊行。

コハルノートへおかえり (角川文庫)

コハルノートへおかえり (角川文庫)

 

 ある土砂降りの日、親友の紗綾との喧嘩した女子高生・小梅をハーブとアロマのお店「コハルノート」の店長・澄礼に救われ、そこで働くようになる物語。猪突猛進な性格にコンプレックスを抱え、親友の紗綾と仲違いしてしまった小梅と、そんな二人の仲直りに助力してくれた澄礼。周囲に助けてもらってばかりいると感じている小梅の行動力が、結果的にいろいろと周囲に好影響を与えているのに、自分に自信を持ちきれないがゆえに、小梅を大切に思う紗綾や澄礼たちの気持ちに気づいていないあたりが微笑ましいかったです。全2巻。

 引っ込み思案でいつもひとりぼっちな樫乃木美術大学の1年生長原あざみが、疑われていた状況を救ってくれた研究生の梶谷七唯と出会ったことでその世界が変わってゆく物語。よく分からないサークル「カジヤ部」に所属することになり、梶谷と共に謎を解きながら増えてゆく仲間たち。ミステリ要素はやや薄味ですが、人との出会いが卑屈だったあざみのありようを変えてゆき、ついには窮地に陥った梶谷を救うために奔走するまでに成長する過程はなかなかで、あざみの過去の伏線も分かりやすかったですがきちんと回収していて好感です。現在2巻まで刊行。

 幼馴染ながら今は微妙な関係の写真部・有我遼平と占い女子・鉢町あかね。たびたび事件に遭遇する遼平を、推理を伝える謎の「壁越し探偵」となって救う青春ミステリー。あかねが密かに営む占い師の依頼者と事件がリンクしていたりで、距離を置きながらも意識する遼平を正体を明かさないままたびたび救う展開。凄まじい洞察力を発揮するのに、不器用過ぎて遼平に気づいてもらえないこじれ具合が切なかったですが、それでも二人のすれ違いのきっかけとなった過去の事件と今がようやく繋がって、これからの変化を期待させるラストはとても良かったです。

吹部! (角川文庫)

吹部! (角川文庫)

 

 三年も早期引退してしまい、幽霊部員も多い崩壊寸前の弱小吹奏楽部にやってきた正体不明の顧問・ミタセン。その奇人変人っぷりに振り回されながら、全国コンクールで金賞!を目標に奮闘する青春小説。あの手この手で部員を集めて指導していく変人顧問・ミタセンに、いきなり部長に指名されてしまった沙耶、西大寺ら集められた吹部のメンバーたち。ミタセンのキャラには首を傾げる部分もありましたが、それぞれ抱えている事情や様々な経験を乗り越えて成長しながら、コンクールに向けてひとつにまとまってゆく展開にはさわやかな読後感がありました。

わが家は祇園の拝み屋さん (角川文庫)

わが家は祇園の拝み屋さん (角川文庫)

 

 「京都寺町三条のホームズ」(双葉文庫)シリーズも好調な望月麻衣さんの新シリーズ。とある理由から中学の終わりから不登校になってしまっていた16歳の小春が、京都に住む祖母・吉乃の誘いで祇園和雑貨店「さくら庵」で住み込みの手伝いをすることになる物語。和菓子職人の叔父・宗次朗やはとこの澪人、不思議な依頼を受ける吉乃ら優しい人々と過ごす日々。様々な人との出会いがあったり依頼を一緒に手伝ったりして過ごすうちに、自ら立ち直るきっかけを掴むことができて良かったなあと思えました。著者さんらしい京都周辺の描写も多く、のんびりとした優しい物語の雰囲気はとても好みです。17年1月に4巻刊行予定。

マツリカ・マジョルカ (角川文庫)

マツリカ・マジョルカ (角川文庫)

 

冴えない高校生柴山が雑居ビルで一日中望遠鏡で観察している謎の女子高生マツリカと出会い、徐々に変わっていく物語。マツリカの理不尽な無茶ぶりに振り回されながらも、クールでミステリアスな彼女が気になって仕方ない柴山は、交流を通じて快活な同級生小西さんと絡むようになったり、目を背けていた辛い事実に向きあうようになったり、彼女が不器用なだけで一種のリハビリだったんですよね。柴山は上手く話せないのに太腿注視し過ぎとか、妙にリアルな太腿描写もあったりしますが、安楽椅子探偵的な謎解きもあったりで独特な世界観が魅力です。続巻は「マツリカ・マハリタ」。

つめたい転校生 (角川文庫)

つめたい転校生 (角川文庫)

 

 気になる彼の正体は殺し屋?倉庫から突然消えた転校生、自分の身の回りで起きる不審死など、人でないものとの切ない出会いを描く連作短編集。ミステリ要素も交えつつ、人でないものとの出会いや交流、別れが読みやすいテンポの良い文章で描かれていて、どうしても重くなりがちなテーマで意外な視点を提供したり、ほっこりするようなテイストで描かれた作品もあったのはわりと新鮮でした。ハッキリとした結末を提示するばかりでなく、読者の想像に任せるようなスタンスもまた味わいのある読後感に繋がっていて、これはこれでなかなか良かったですね。

山内くんの呪禁の夏。 (角川ホラー文庫)

山内くんの呪禁の夏。 (角川ホラー文庫)

 

 生まれもっての災難体質を持つ小学六年生の山内くん。彼の住むアパートが火事で焼け父の実家に戻ったことで、昔彼にお守りをくれた不思議な子・紺と再会する物語。紺によってこの世ならぬものが見える目にされてしまった山内くん。久しぶりに訪れた父の実家がある田舎の特殊な雰囲気と、未解決なままの連続神隠し事件。そして紺や仲間たちと一緒に次々奇妙な事件に遭遇する中で、徐々に明らかになる山内くんを取り巻く因縁。彼らの友情なのか淡い恋心なのかまだ判別がつかない想いは、その因縁とも複雑に絡んでいきそうで楽しみですね。現在2巻まで刊行。

僕とモナミと、春に会う (幻冬舎文庫)

僕とモナミと、春に会う (幻冬舎文庫)

 

 「ホーンテッド・キャンパス」(角川ホラー文庫)シリーズでおなじみの櫛木理宇さんの新シリーズ。人と話すことが大の苦手で毎週水曜日に原因不明の熱に悩まされている高校生の翼。病院の帰り道に偶然立ち寄った奇妙なペットショップで不思議な猫と出会い、家で飼うことになる物語。彼だけには別のものに見える不思議な猫・モナミとの出会いが転機となって、自身のわだかまりを解消しいろいろなものへの見る目が変わっていったり、お店でのバイトで同じようなお客と関わって一緒にその不安を解消したりで、その世界が少しずつ広がってゆくことを実感する物語は、とても読みやすくて良かったなと思える読後感でした。続刊を読んでみたい作品ですね。

 「かくりよの宿飯」「浅草鬼嫁日記 あやかし夫婦は今世こそ幸せになりたい。」 (富士見L文庫)シリーズの友麻碧の新シリーズ。複雑な家庭事情のために孤独な生活を送る女子大生・千歳。彼女が二十歳の誕生日に神社の鳥居を越え「千国」という異界に迷い込み、仙人薬師・零に拾われ彼の弟子として働くことになる物語。日本人が初代国王となって建国したどこか日本に似たところがある国「千国」。優しい人たちにも恵まれて新天地で生きてゆくことを決心した千歳が、王国の後継者争いに巻き込まれながらも自分らしさを取り戻し見出してゆく物語は、いかにも著者さんらしい美味しいご飯描写もあったりで、既存作とうまく差別化してシリーズ化してもらえたら嬉しいなと思いました。

霊感検定 (講談社文庫)

霊感検定 (講談社文庫)

 

 「記憶屋」(角川ホラー文庫)の織守きょうやさんによるシリーズ。バイト帰りに同級生の羽鳥空と印象的な出会いを果たした転校生の修司。彼女と再会した図書室で風変わりな司書・馬渡の心霊現象研究会の活動に巻き込まれてゆく青春ホラー。霊の想いに寄り添うちょっと変わった女の子・空と彼女を見守る幼馴染・晴臣。彼ににらまれながらも空とのやりとりを貴重に思う修司。仲間と解決する霊絡みのトラブルは切なかったり重かったりもしましたが、それ以上に彼らの優しい想いがつまった甘酸っぱい青春している雰囲気をたっぷりと味わえました。登場人物も魅力的でページの割にはとても読みやすいです。現在2巻まで刊行。

 長らく空き家だった川越の片隅に佇む印刷所・三日月堂。そこにかつて亡くなった店主の孫娘・弓子が住むことになり、昔ながらの活版印刷で人との繋がりを解きほぐしてゆく物語。近しい人との関係に迷いを抱える登場人物たちが、身近な人の繋がりから知る営業を再開した三日月堂の存在。物静かで真摯な弓子さんと一緒に印刷するものを考えてゆくうちに、悩みにもきちんと向き合えるようになってゆく展開は、失われた活版印刷の良さを思い出させてくれるだけでなく、作られた印刷物も悩める人の想いに寄り添っていて、とても素敵な物語だと思いました。

神戸栄町アンティーク堂の修理屋さん (双葉文庫)

神戸栄町アンティーク堂の修理屋さん (双葉文庫)

 

 亡き祖父に譲られたアンティークショップを継ぐために、仕事を辞めて東京から神戸に移り住んだ高橋寛人が、お店を間借りしている修理職人の後野茉莉と出会う物語。何でもパソコンで調べる古い物に全く興味のない寛人と、物に宿る想いを大切にしてどんなものでも修理してしまう茉莉。そんな一見噛み合わなそうな二人が、抱えていた過去に決着をつけたり、亡き祖父・万の縁から多くの人たちと知り合ったりしながら、大切な居場所で過ごす家族のような存在として、共に過ごす時間や大切な想いを共有するようになってゆく物語はなかなか良かったですね。現在2巻まで刊行。

あの日の花火を君ともう一度 (双葉文庫)

あの日の花火を君ともう一度 (双葉文庫)

 

 中3の夏休み。幼馴染の林田律紀と付き合い始めた大柴美緒が、書いていた日記に自分の筆跡で律紀の親友・高梨桐哉と付き合っているという見覚えのない記述を見つける物語。2人で花火を見た夜、交通事故に遭って帰らぬ人となった律紀。悲しみ暮れる美緒を隣で励まし続けた桐哉。そして新たな関係が育まれてゆく中で唐突に気付くあの日記の真実。今ある幸せと抱えていた後悔に葛藤する美緒が下した決断は尊いものでしたけど、その代償として突きつけられた彼女の大きな喪失感を誰も知らないというほろ苦い結末が、とても切なくて印象的な物語でした。

 「スープ屋しずくの謎解き朝ごはん (宝島社文庫)」の友井羊による新作。「吃音」を抱える高校生菓奈が、密かに好意を寄せるスイーツ男子の真雪や「保健室の眠り姫」悠姫子と知り合い、スイーツ絡みの事件を解決する連作ミステリ。お喋りは苦手で自信はなくても難事件をひらめきで解決してゆく菓奈。時々加減が分からなくなる彼女にとってうまくフォローしてくれる真雪や悠姫子、事件を通じて理解を深めてゆく友人たちの存在はかけがえのないもので、彼女たちの繊細な心理描写や美味しそうなお菓子の数々を読むと続巻に期待したくなりますね。おまけ話で後輩からはそう見えるんだなーと少しだけ意外な気持ちになりました。

道然寺さんの双子探偵 (朝日文庫)

道然寺さんの双子探偵 (朝日文庫)

 

珈琲店タレーランの事件簿 (宝島社文庫)」の岡崎琢磨による新作。福岡県の道然寺に住む性格が正反対な中学生の双子。副住職・窪山一海にもたらされる檀家さん絡みの数々の謎に、双子がそれぞれの論理で事件の謎をに挑む物語。悪意で物事を考えるレンと性善説で物事を考えるラン。軒下に捨てられ道然寺で育てられた双子の二人が、消えた香典や飴屋の娘の憂鬱、水子供養や夢に出てきた女性など、正反対のアプローチから挑む二人の謎解きはなかなか面白かったです。住職や遠縁でお手伝いのみずきさんもなかなかいい味を出していて、彼女や双子にいじられっぱなしの一海視点から語られる物語、シリーズ化を期待します。

 「薬屋のひとりごと (ヒーロー文庫)」の日向夏さんによる新作。古都にある玉繭神社の分社で布を織りつつ、大学の非常勤講師として機織りを教える絹子。そんな彼女が教え子たちとの交流から事件に巻き込まれゆく謎解き噺。田舎の辺鄙な村から出てきて社務所を管理する大家や美味しい料理を作ってくれるクロやシロと住んでいる、特殊体質でやたらと食いしん坊な絹子。彼女の周囲で連鎖的に発生するホラーめいた事件や、徐々に明らかになってゆく田舎での彼女の過去には強いインパクトがあって、複雑な因縁を背景に抱えている大家と絹子の関係も今後が気になるところですね。続編あるようならまた読んでみたいです。

日曜は憧れの国 (創元推理文庫)

日曜は憧れの国 (創元推理文庫)

 

 内気な千鶴、明るく子供っぽい桃、ちゃっかりして現金な真紀、堅物な優等生公子の四人が四谷のカルチャーセンターの講座で出会い、そこで遭遇する様々な事件の謎に挑む青春ミステリ。ひょんなことから一緒に講座を受けることになった性格も学校もばらばらな四人がそれぞれ主人公役となって連作短編を構成する形式。現状に悩みを抱えていて、他の子に複雑な感情を抱いたり長所も短所もある多感で繊細な女の子たちが、講座を通じた交流や謎解きで協力や衝突しながら、それがきちんと向き合ったり成長に繋がってゆく展開はとても良かったと思いました。

放課後スプリング・トレイン (創元推理文庫)

放課後スプリング・トレイン (創元推理文庫)

 

 福岡市内の高校に通う吉野が、親友・朝名の年上の彼氏を紹介された時に同席していた大学院生・飛木と知り合い、二人で周囲の不思議な出来事を解決してゆく青春ミステリ。主人公や親友の朝名は等身大の高校生らしい視点で考えるタイプで、彼女たちの周囲で起こる人が死なない謎解きが中心。探偵役飛木との距離感含めて人物の掘り下げはこれからで、落ち着いた雰囲気のストーリー展開はしっかりしていましたが、昨今の流行りを期待して読むとやや好みが分かれそうな印象ですね。最後に意外な謎解きもあったりで、続きが出るならまた読んでみたいです。

虹を待つ彼女

虹を待つ彼女

 

 優秀で予想できてしまう限界に虚しさを覚えていた研究者・工藤が、死者を人工知能化するプロジェクトに参加して、衝撃的な自殺でカルト的な人気のゲームクリエイター・水科晴を知る物語。過去の事件や水科晴のことを調べてゆくうちに、彼女に共鳴し惹かれてゆく工藤。重要なキーパーソン「雨」の存在と調査中止を警告する謎の脅迫。我が身が危険に晒されながらも諦めず、晴を人工知能で再現することに妄執する工藤の姿には鬼気迫るものがありましたが、真相を知った彼のほろ苦くも粋な決断は少なからず心に響くものがありました。

FEED

FEED

 

 家出したふたりの少女が出会ったのは最底辺のシェアハウス。お互い親友と感じていた綾希と眞美が、些細な行き違いから歩む道が分岐してしまう物語。生まれや育ちは違えども、家出して行き場のない存在としてたまたま同室になった二人。確かに綾希の方が考えて慎重に行動してはいましたが、転落してゆく眞美と転機が訪れた綾希の明暗を分けたのは、出会いや巡り合わせといった運の要素も大きかったですね。残酷なまでに差がついた二人の対比描写は辛いものがありましたが、立場を違えても親友としての絆は忘れなかった二人に微かな救いを感じました。

石黒くんに春は来ない

石黒くんに春は来ない

 

 典型的なスクールカーストが形成されたクラスで起こった、スキー教室における石黒君の遭難事件。平穏なようでいて歪な日常を取り戻した生徒たちに突然、意識不明の重体だった石黒君からメッセージが届く学園サスペンス。気ままに君臨するグループに事なかれの主義の教師、それによって生じる不登校や少しずつ溜まってゆく不満。それを巧みに扇動するものが現れることでガラリと様相が変わる狭い社会における群集心理の怖さが生々しかったです。途中から傍観者だった主人公恵美でしたけど、一度作られてしまった流れをどうにかするのは難しいですね。

 人前には一切姿を見せない前衛芸術家・川田無名。唯一繋がりがあったギャラリー経営者永井唯子が殺され、アシスタントの佐和子が犯人や無明の居場所、最後に残された作品の謎を探るべく動き出す物語。唯子の突然の死によってその後始末に奔走する佐和子、事件後も見つからないまま生死すら不明の無名、彼が1959年に描いた作品が今売りに出される意味。殺人事件自体の真相は陳腐でしたが、新しい事実が判明する度にガラリと変わってゆく登場人物たちの印象、作中で語られる芸術家のありようや作品に対する考え方はとても面白かったと思いました。

こちら文学少女になります

こちら文学少女になります

 

 文芸担当を希望する入社一年目のマンガを読まないザ・文学少女山田友梨が配属されたのはなんと青年漫画誌。そんな彼女の言動が次々と大きな騒動を呼び起こすお仕事小説。大物作家を激怒させて長寿連載がまさかの終了、童貞が主人公のエッチ漫画の人気は急降下、雑誌を牽引する大ヒット作の作家とはなかなか会えない状況。山田も最初は口ばかり達者で杓子定規な上に、少しばかり配慮が足りない面もありましたが、見方を変えればこれまで分からなかった様々な事情も見えてきたりで、悪戦苦闘しながら乗り越えて成長してゆく姿はなかなか良かったです。

ふたりの文化祭

ふたりの文化祭

 

 「わたしの恋人 (角川文庫)」「ぼくの嘘 (角川文庫)」の関連作品。スポーツ万能でイケメンの九條潤と、同じクラスで彼の小さい頃を知っていて今は少し苦手な図書委員・八王寺あや。文化祭を間近に控えて接点ができていく二人の視点で語られる物語。自覚があって周囲の視線を意識した行動が多い潤、本を読むこと自分の居場所に敏感なあやという文化祭の準備で接点ができるたびに苦手意識を持つ性格も考え方も違う二人が、自分の気持ちに素直に向き合ってみたら何か共感があるのは面白いですね。前作の流れからするとそうなるだろうなあと思った結末でしたが、潤とあやが今後どうなってゆくのかまた読んでみたいです。

よっつ屋根の下

よっつ屋根の下

 

 勤め先の大病院の不祥事隠蔽を批判し、犬吠の地方病院に飛ばされた父。それに半ば反抗心でついて行った息子とついていかなかった母・そして娘。それぞれの心情が綴られてゆくひとつの家族の物語。不安を抱えながら引っ越した息子から始まり、明らかになってゆく家族それぞれの想い。最初は冷たいと感じた母にも複雑な過去があったりで、読み進めてゆくうちにそれぞれの印象も大分違う印象に上書きされていきますね。あるべき姿に落ち着いてゆく結末には少し寂しい気持ちもありましたが、これはこれで絆を感じる家族のひとつの形なのだと思えました。

木もれ日を縫う

木もれ日を縫う

 

 田舎の生活を厭い東京に出てきてから故郷とは疎遠だったOLの小峰紬。そんな彼女の前に突然一年半前に失踪していた母親を名乗る女性が現れ戸惑いを覚える物語。顔も似ていて過去も知っているのにどうしても母とは思えない紬。母を連れてきた民俗学者柳川や疎遠だった二人の姉たちとのやりとりが地方出身者にはザクザク刺さる内容でしたが(苦笑)、深い思いを抱えつつも山姥になったと語る母の働きかけによって、三姉妹が過去のわだかまりや今の困難な状況を乗り越えて前に進むきっかけを得てゆく、感じるところの多かった優しく切ない物語でした。

小説家の姉と

小説家の姉と

 

 大学在学中に突如作家デビューした5歳年上の姉・美笑。一人暮らしを始めた彼女から「一緒に住んでほしい」と頼まれた大学生の弟・朗人が同居の真意について考え始める家族と友情の物語。堅実でしっかりとした考え方をする姉、冷静で一歩引いた見方をする弟・朗人とその彼女・清香、朗人の幼馴染・千葉。ふとしたきっかけから始まった四人ののんびりとした日常。転機から明らかになってゆく同居の真相にはなるほどなあと思いましたが、気の置けない四人の距離感や実家との関係に繊細な気遣いが感じられる、最後まで心地よく読めた素敵な物語でした。

 

以上、これでこれまで予定していた四本全てアップできました。ただ2016年スタートという前提でエントリーを作ったため、ライト文芸などは各レーベルを牽引している主力シリーズはあまり紹介できなかたので、機会があったら追加でその辺もまた紹介していきたいと思います。

 

ではまた。