読書する日々と備忘録

主に読んだ本の紹介や出版関係のことなどについて書いています

※弊サイト上の商品紹介にはプロモーションが使用されています。

2016年8月に読んだ新作おすすめ本

 8月に読んだ本のうち新作のオススメです(8月に読んだ本はこちら)。基本的に読む本は続刊をベースに考えていて、それを踏まえたうえでそれ以外を考えているのですが、今月の読んだ中からオススメの新作を挙げてみたら21作品ありました。追いかけるものが多過ぎたり、後で気づいたりでちょっと前の作品もあったりしますがその点はご容赦を。いずれも個人的にいいなと思えたオススメの作品です。気になる作品があったらぜひ手にとって読んでみてください。

魔法使いと僕1 (オーバーラップ文庫)

魔法使いと僕1 (オーバーラップ文庫)

 

故郷と同胞を奪われ旅をしていたカルルが、旅の荷物さえ失い行き倒れていた少女エルシーと出会い、共に旅するボーイ・ミーツ・ガールファンタジー。全てを失い生きる意味を求めて旅するカルルと、世間知らずで未熟な訳あり魔法使いのエルシー。世慣れているカルルと一緒に旅することを望んだ優しいエルシーは、彼と引き離されて厳しい現実を突きつけられても芯の部分ではブレなくて、そんな彼女をカルルもまた放っておけないんですよね。エルシー自身は気づかぬまま秘密の契約を結んだ二人。その旅がどんなものになってゆくのか、今後が楽しみです。

 少年時代の突然の相棒喪失で、幼馴染の渚にも呆れられ、悪友の卓と不毛な日々を送る楠田幸斗。そんな彼のもとに突然その佐原剣が再び転校してきて、バッテリーを組むために野球部に加入しようと奮闘する物語。怠惰な日々を送っていても、もう会えないと思っていた相手に「お前とバッテリーを組みたいから戻ってきた」とか言われたり、小さい頃の仲間たちが再集結とかそりゃ燃えますよね(でも身体はついていかないみたいなw)ベタだけど今後に期待したくなる泥臭くとても熱い展開でした。ツンデレでチョロインな幼馴染との今後もとても楽しみです。

 優秀な姉と妹がいるごく平凡な女子大生・水瀬雫が、不思議な本を拾って異世界に飛ばされ、魔法文字を学ぶ魔法士の青年・エリクに元の世界の言語を教える代わり、共に帰還の術を探す旅に出る物語。異世界に行ったからといって特別な力が発現するわけでもなく、一人放り出された中で数少ない幸運は言葉が通じたこと。何も分からない世界で自分を導いてくれるエリクに出会えて旅に出た雫が、周囲の人たちに支えられ、戸惑いながらも自分ができることを頑張って成長してゆく姿はとても良かったですね。まだまだこれからの物語ですし、今後の展開に期待。

いつかの空、君との魔法 (角川スニーカー文庫)

いつかの空、君との魔法 (角川スニーカー文庫)

 

 上空を覆うダスト層雲によって空の青さを知らず、人々の生命活動に精霊が不可欠な世界。ダスト層雲を払い精霊を呼び寄せるヘクセを務める高所恐怖症のカリムと幼馴染の少女・揺月の物語。幼い頃のカリムの危機を救い代償を負った揺月に負い目を感じて、長らくすれ違ったままの二人。街を危機に陥れる規模の精霊不足という危機に共に挑む中で描かれる精霊と戯れるグラオベーゼンの幻想的な描写や、随分遠回りこそしたものの自分の気持ちにきちんと向き合って、失われかけた絆を取り戻してゆく二人の繊細な距離感がとても素晴らしかったと思いました。

 最後の魔女という宿命を背負う少女・星降ロンドの運命を変えた、重力を操る能力を持つ以外は平凡な高校生・獅堂ログとの出会い。彼らにクラス一の美少女・木佐谷樹軍乃と関わりだしたことでさらに大きく動いてゆく物語。ログを振り回す軍乃が抱える秘密とその真意、闘病を乗り越えてこれから人生を満喫したいと願うロンド、彼女を支えるログが直面するロンドを取り巻く宿命との契約。何とも複雑なバランスの上に成り立っている三人の関係と、最後に軍乃から明かされたその想いと事実がどのように物語に影響してゆくのか、今後の展開が楽しみですね。

 育ての親ルイジアが遺したボロ宿で借金取りに追われるラザロ。そんな彼のもとに北の王国随一の竜砲騎士だったルイジアの姪マデリーンが現れ、一緒に宿の再建を目指すことになる物語。見た目は金髪碧眼の美女で真摯な性格も、世間知らずで何をやらせてもポンコツなマドリーン。そんな彼女に振り回される日々に、借金取りや彼女を連れ帰ろうとする竜砲騎士見習いレティシア、さらにはルイジアと密約を結んでいた大海賊まで現れてドラバタ具合が加速してゆく展開はとても面白かったです。彼女の魅力で人が集まる(目標だけは壮大な)宿屋の今後に期待。

幼馴染の自動販売機にプロポーズした経緯について。 (カドカワBOOKS)

幼馴染の自動販売機にプロポーズした経緯について。 (カドカワBOOKS)

 

 田舎町のおんぼろな自動販売機に取り憑いた着物姿の「自動販売機の精」。幼い頃に彼女と最悪の出会いをした神主の息子が、やがて彼女への想いを自覚する恋の物語。少年にしか姿が見えない、世間知らずだけれどとても優しい彼女と共に過ごすうちに、惹かれてゆくことを自覚し密かに苦悩したり迷走する少年。彼女が宿るおんぼろ自動販売機が危機的状況を迎えるまで随分遠回りしたなあとも思いましたが、それでも真摯に想う彼女を助けるため家業まで巻き込むなりふり構わない彼の奔走に、神様も粋な計らいをしてくれた素敵な物語でした。次回作も期待。

異世界居酒屋「のぶ」 (宝島社文庫)

異世界居酒屋「のぶ」 (宝島社文庫)

 

 異国の古都に突然現れた居酒屋「のぶ」。「トリアエズナマ」がとんでもなく美味く、見たことも聞いたこともない料理に、衛兵たちや水運ギルドの面々、お忍びの聖職者に貴族など、個性的なお客が訪れるグルメファンタジー。知り合いに誘われたりひょっこり訪れたりで最初は懐疑的なもお客たちが、そこで出されるお酒や料理のとりこになって、お店の危機には駆けつける。お客に出される料理の描写はとても美味しそうで、そんな常連たちや増えてゆく店員たちとタイショーやしのぶさんたちとのやりとりもまたとても楽しかったです。続巻の文庫化も期待。

霊感検定 (講談社文庫)

霊感検定 (講談社文庫)

 

 バイト帰りに同級生の羽鳥空と印象的な出会いを果たした転校生の修司。彼女と再会した図書室で風変わりな司書・馬渡の心霊現象研究会の活動に巻き込まれてゆく青春ホラー。霊の想いに寄り添うちょっと変わった女の子・空と彼女を見守る幼馴染・晴臣。彼ににらまれながらも空とのやりとりを貴重に思う修司。仲間と解決する霊絡みのトラブルは切なかったり重かったりもしましたが、それ以上に彼らの優しい想いがつまった甘酸っぱい青春している雰囲気をたっぷりと味わえました。登場人物も魅力的でページの割にはとても読みやすく、続巻が楽しみです。

七日目は夏への扉 (講談社タイガ)

七日目は夏への扉 (講談社タイガ)

 

 妙にリアルな死亡事故現場を夢だと思っていた朱音の元にもたらされた、学生時代の恋人・森野の訃報。その死の真相を探るうちに一週間の時系列がどんどん崩れてゆく物語。朱音が何かに直面するたび意識が途切れ、気づくと曜日が前後する一週間。欠けたピースが次第に埋まってゆく展開で突きつけられる理不尽な呪い。一見サバサバしている朱音は、一方で大切な人たちのためならいくらでも頑張れる人で、繰り返さないために強引に運命を変えてしまうパワーには苦笑い。それで全てが解決するわけではないですが、生きているって大事なことなんですよね。

向日葵ちゃん追跡する (新潮文庫nex)

向日葵ちゃん追跡する (新潮文庫nex)

 

 ストーカー対策員原向日葵19歳。実は元ストーカーの過去を持つ彼女が、接近禁止を言い渡された元恋人を殺人現場で見かけてしまい、再び運命が動き出すほろ苦青春ミステリー。容疑者とされた彼の無実を何とか証明したいと思うものの、すれ違いの結果として接近禁止になった過去から行動を制限されている向日葵。頭では理解していても強い想いに揺れる彼女の複雑な葛藤が痛いほど伝わってきて、その自らの思考に向き合うことが事件解決の伏線に繋がってゆく皮肉な結末でしたけど、前に進むことを決意した彼女の幸せを願わずにはいられませんでした。

青の数学 (新潮文庫nex)

青の数学 (新潮文庫nex)

 

 数学オリンピックを制した女子高生・京香凜と、雪の日に偶然出会った高校生の栢山。「数学って、何?」と問いかける彼女に意識され、それに触発されるように栢山もまた数学にのめり込んでゆく青春小説。若き数学者が集うネット上の決闘空間「E2」。そこで他校のライバルたちと出会い競う中で、香凜に対する答えを探す栢山。立ち位置が違う友人たちや考え方が異なるライバルたちと対比させながら、理由も分からないままひたむきに数学に向き合い続ける栢山の姿はとてもまっすぐで、ここから物語として広がっていきそうな今後の展開が楽しみですね。

イマジナリ・フレンド (ハヤカワ文庫JA)

イマジナリ・フレンド (ハヤカワ文庫JA)

 

 リアルではぼっちでも空想の友達「イマジナリ・フレンド」の美少女・ノンノンと楽しい日々を過ごす大学生やまじ。現状に小さな不安を感じた彼女が、似たような人々が集まるカンパニーへと彼を誘う物語。カンパニーで二人が知ったイマジナリ・フレンドとの様々なありようと、大人になると別れを迎える空想の友達との関係。大学では相変わらずキモい行動で周囲から浮きがちなやまじにも、その関係を大切にしてくれる人たちができて、絶対に失いたくない関係を取り戻そうと奔走した結末には、これもまたひとつのありようだと思える納得感がありました。

 京都・姉小路通沿いにある仕出し&弁当屋「ちどり亭」。店主の花柚さんと彼女に料理を教わるバイトの大学生・彗が、お弁当を作りながら周囲の人たちと交流してゆく物語。家付き娘で毎週お見合いをして人脈を広げている残念な花柚さんと、同級生に密かに恋する彗の二人で読んでいるだけでも美味しそうな料理を作りながら、お弁当を作る手助けをしたり、一緒に花柚さんの師匠を看取ったり、そして花柚さんの元婚約者との切ない関係だったり、不器用でなかなか素直になれない人たちの一途でくすぐったい気分になる優しい思いに満ちた素敵な物語でした。

 別居中の妻を事故で亡くし、高校生の一人娘・美嘉との関係は冷えきったままの不動産屋社長・幸一郎。そんな時3人の思い出の動物園が閉園危機にあると知り、美嘉の笑顔を取り戻すため何の知識もないまま動物園再建を決意する物語。最初は家族のためだったはずが、いつの間にか仕事一辺倒の状況にすれ違ってしまった関係。一縷の望みを託し動物園再建へ奔走してしまう幸一郎は本当に不器用だと思いましたが、その苦難にも諦めず立ち向かう姿に周囲も協力してくれて、どうにか修復に向けた一歩を踏み出せたことにとても温かい気持ちになれました。

 交通事故に遭い入院していた大学生の明良。退院の日に身に覚えのない彼の彼女だと自己紹介する女の子・一夏に出会う、二人のひと夏の物語。自分は覚えていなくても周囲は明良の彼女と認識している状況。積極的な彼女と共に過ごすうちに徐々に惹かれてゆく明良と、一緒に見上げた星空を取り戻すためさらに踏み込んでゆく一夏。思い出せそうで思い出せなかった真実はとても悲しい出来事でしたけど、不思議な縁と予感によって止まっていた時間も再び動き出し、これまで支えてくれた想いにもようやく気づくことが出来た切ないながらも素敵な物語でした。

バスケの神様 揉めない部活のはじめ方 (集英社オレンジ文庫)

バスケの神様 揉めない部活のはじめ方 (集英社オレンジ文庫)

 

 中学のバスケ部で一生懸命だったがゆえに空回りし、孤立した苦い過去を持つ郁。バスケは続けないつもりで知り合いのいない高校に進学した彼が、中学時代の彼を知るバスケ部の部長に勧誘される物語。これまでなかった期待に戸惑いながらも、少しずつバスケ部に居場所を見出してゆく郁。因縁を抱えた以前の仲間との対戦があったり、バスケが大好きで熱血だと思っていた部長がバスケ部を立ち上げた理由が思わぬものだったりで、周囲を信じ切れずに心が揺れるものの、それを乗り越えて一丸となってゆく展開はベタながら清々しい青春小説だと思いました。

校閲ガール (角川文庫)

校閲ガール (角川文庫)

 

憧れのファッション誌編集を夢見て出版社に入社するも配属されたのは校閲部。そんな入社2年目河野悦子の日常を描いたお仕事小説。編集のように直接作家と関わらない、地道でプロフェッショナルな校閲の仕事を、登場人物との関わりで比較しつつ、テンポよく描かれるストーリーは面白かったです。衣食住の衣にお金をつぎ込む悦子は博覧強記の毒舌でインパクトがありましたが、憧れを持ちながらどこか醒めた現実主義者な彼女も、恋したり何だかんだ言いつつ困った人を見捨てられない部分も同居するところが、何ともいい味を出していると思いました。

いなくなった私へ (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

いなくなった私へ (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

 

 ある朝、渋谷のゴミ捨て場で目を覚ました人気シンガーソングライターの上条梨乃。誰にも彼女が上条梨乃だと気づかれず、さらに自身の自殺報道を知った彼女が、ふとしたきっかけで出会った優斗、樹と共に奇妙な現象の原因を追う物語。彼女はどうして自殺したことになっているのか、偽名を使い所属していた芸能事務所にバイトで入りつつ、二人と事態の真相を探る展開。彼女たちのありようや今後どうしていくのかといったディテールはやや気になりましたが、それでも後半の怒涛の展開やほろっとするラストはページ数も気にならない面白さを感じました。

小説家の姉と

小説家の姉と

 

 大学在学中に突如作家デビューした5歳年上の姉・美笑。一人暮らしを始めた彼女から「一緒に住んでほしい」と頼まれた大学生の弟・朗人が同居の真意について考え始める家族と友情の物語。堅実でしっかりとした考え方をする姉、冷静で一歩引いた見方をする弟・朗人とその彼女・清香、朗人の幼馴染・千葉。ふとしたきっかけから始まった四人ののんびりとした日常。転機から明らかになってゆく同居の真相にはなるほどなあと思いましたが、気の置けない四人の距離感や実家との関係に繊細な気遣いが感じられる、最後まで心地よく読めた素敵な物語でした。